ワールドカップ 日本代表

日本代表に残る2つの不安材料。W杯メンバー選考の“死角”とは【2026】

長友佑都 写真:アフロスポーツ

長友招集は最適解だったのか

2つ目の大きな課題として挙げられるのが、DF長友佑都(FC東京)の招集を巡る問題である。長友は今回の選出によって、日本代表史上最多タイとなる5大会連続のW杯メンバー入りという偉業を成し遂げた。しかし、所属するFC東京では安定した出場機会を得られておらず、メンバー発表直後のリーグ戦でもベンチスタートのまま出番はなかった。現在のパフォーマンスが世界基準に達しているのか疑問視する声が上がるのも無理はなく、ファンやメディアの間でも賛否が分かれている。

長友自身は会見で「W杯独特のにおいを嗅ぎ分け、悪い空気になれば浄化できる。空気清浄機のような役割を果たせる」と語り、チームの雰囲気を引き締め、大舞台で自身の経験を伝える精神的支柱としての価値を強調した。確かに、W杯という極限の舞台において、経験豊富なベテランの存在がチームにもたらす価値は小さくない。しかし、その役割が主目的であるならば、貴重な26人の“選手枠”を使う必要があったのかという疑問も残る。

実際、今回負傷離脱となったMF南野拓実(ASモナコ)がスタッフとして帯同するという情報もあり、さらにベンチには長谷部誠や中村俊輔といった日本代表の歴史を支えたレジェンドたちがコーチングスタッフとして名を連ねている。彼らの存在だけでも、若手への経験共有やチームを鼓舞することは十分に可能であるはずだ。選手枠は本来、ピッチ上で直接的に勝利に貢献できる選手に与えられるべきであり、「スタッフでも補える役割」のために1枠を割くことは、他の実力者の選出機会を奪うことにもつながりかねない。

もっとも、長友招集の背景には、チームの戦術的な台所事情が絡んでいると推測できる。最大の痛手となったのが、左サイドの絶対的エースであるMF三笘薫(ブライトン・アンド・ホーブ・アルビオン)の負傷離脱である。三笘不在により、左のシャドーやウイングバックを担える人材が急激に不足してしまった。現在、その代役候補として挙がるのはMF中村敬斗(スタッド・ランス)やFW前田大然(セルティック)である。しかし、中村は優れた得点感覚を持ち、よりゴールに近いシャドーの位置で起用したい選手だ。前田も、前線からのハイプレスや背後への抜け出しなど別の役割で大きな価値を発揮する。彼らを左サイドのワイドな役割に固定することは、戦術的な幅を狭めるだけでなく、選手への負担増にもつながり“もったいない起用法”となってしまう。

そうした事情を踏まえると、過去に左サイドを主戦場とし、代表の戦術も熟知している長友に白羽の矢が立ったこと自体は理解できる。しかし、左サイドのバックアップという観点で見れば、DF鈴木淳之介(コペンハーゲン)という有望な選択肢も存在していた。鈴木は左シャドーとウイングバックの両方を高いレベルでこなせるポリバレント性を持ち、強力なサイドアタッカー相手にも引けを取らない守備力と推進力を秘めている。将来を見据えた戦力強化という意味でも、その起用には十分な説得力があったと言えるだろう。

だからこそ、鈴木のような若く実力のある選手がいる中で、Jリーグでも出場機会が限られている長友を選んだ判断が、本当に“ベストな選択”だったのかという疑問は残る。経験値を重視した森保監督の決断が吉と出るのか、それとも新戦力への切り替えの遅れとして響くのか。本大会で、その答えが問われることになる。


森保一監督 写真:アフロスポーツ

2つの課題を抱えて挑む北中米W杯

今回指摘した「ボランチの層の薄さ」と「長友招集に見る左サイドの運用問題」は、森保ジャパンがW杯という大舞台を戦い抜く上で、アキレス腱となり得る重要課題である。ボランチの本職が不足する中で、遠藤のコンディションや板倉滉らのコンバートに依存する中盤構成は、一歩間違えれば試合の主導権を失うリスクを抱えている。また、長友の精神的支柱としての役割や左サイドのバックアップとしての期待も、ピッチ上での絶対的なパフォーマンスが保証されていない以上、極めてリスキーな決断である。対戦国がこうしたポイントを狙いどころとして分析してくる可能性も十分に考えられる。

この選考からは、森保監督が戦術面やコンディション面だけでなく、経験やチームの結束力、リーダーシップを重視していることがうかがえる。それは、森保監督自身の哲学を色濃く反映した選考だったとも言えるだろう。長友自身が「W杯が終わる頃には称賛しかないでしょうね」と力強く語ったように、ベテランの経験や熱量がチームを想像以上の高みへ導き、結果によって批判を覆す可能性も十分にある。

しかし、世界トップクラスの強豪国がひしめくW杯は、精神論だけで勝ち抜けるほど甘い舞台ではない。浮き彫りになった2つの大きな課題を、監督の采配と選手たちがどのようにカバーし克服できるのか。1つの怪我や1枚のカードが命取りになる短期決戦において、この選考が吉と出るか凶と出るか。日本代表の真価は、世界との厳しい戦いの中で証明されることになる。我々は、不安と期待の両方を抱えながら、彼らがピッチ上で示す答えを見届けるしかない。

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名前:秕タクオ

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