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チーム崩壊を招く「セットプレー依存」。フットボール戦術の落とし穴

久保建英 写真:アフロスポーツ

現代のフットボールにおいて、セットプレーの重要性は疑いようがない。コーナーキックやフリーキックといったリスタートの場面は、総得点の20%~30%を占めるとも言われ、今や主要な得点源の一つとなっている。特に実力が拮抗した試合や、相手が自陣深くにブロックを敷く展開では、セットプレーから生まれる一撃が勝敗を左右するケースも少なくない。そうした背景もあり、近年では専門のセットプレーコーチをスタッフに加え、緻密に設計されたサインプレーを導入することが、トップクラブにおける“標準装備”になりつつある。

もっとも、「セットプレーを武器として活用すること」と「セットプレーに依存すること」の間には、決定的な違いが存在する。セットプレーによる得点力を高めること自体は有効な戦略だが、それに過度に頼る戦い方には長期的な成長を阻害しかねないリスクも潜んでいる。

その象徴的な例として挙げられるのが、近年のアーセナルだ。彼らは昨季から今季にかけて、セットプレーから驚異的な数のゴールを量産してきた。専門コーチが仕込む戦術は一時「天才的」とまで称賛されたが、一方でセットプレーへの比重が高まりすぎることによる“依存体質”を懸念する声も存在する。

果たしてセットプレーを最大の武器とする戦い方は、チームを真の頂点へ導くのだろうか。ここでは、「セットプレー依存」がもたらす構造的なデメリットや、その戦術が抱えるリスクについて考察していく。


セットプレー依存が招く「攻撃力の停滞」

セットプレーに依存したチームが直面する最も大きな問題の一つは、「セットプレー以外で得点を奪えなくなる」という状況に陥りやすいことである。セットプレーから多くの得点を生み出しているという事実は、見方を変えればオープンプレー、つまり流れの中から相手の守備組織を崩し切れていないことの裏返しでもある。

前述のアーセナルは、コーナーキックの際にペナルティエリア内へ可能な限り多くの選手を配置し、特にゴールキーパー周辺に密集を作ることで相手守備の自由を制限する戦術を得意としている。この戦法によってゴールを量産していることは事実であり、その完成度の高さは評価されるべきだろう。しかし裏を返せば、ボールポゼッションやコンビネーション、あるいは選手同士の流動的かつ有機的な連動によって相手のディフェンスラインを突破する“本来のフットボール”の部分に課題を抱えているとも解釈できる。

オープンプレーで相手を崩すには、チーム全体の共通理解と高度な戦術的連携が不可欠だ。例えば、中盤で細かくボールに絡みながら、中央突破やサイドでの連携によって相手の守備網を切り裂いていくような流動的なスタイルは、フットボールの醍醐味である。だが、セットプレーという「止まったボール」からの得点に活路を見出しすぎるあまり、こうした流れの中での攻撃構築が疎かになれば、チーム全体の攻撃力はやがて頭打ちになる。セットプレーでの強さは、本来なら露呈するはずの得点力不足を覆い隠す“カモフラージュ”として機能してしまい、強さの証明どころか、チームの攻撃戦術の限界を示すネガティブなアピールになりかねないのだ。


相手の対策による「無力化」という脆弱性

さらに、セットプレーには「対策されやすい」という決定的な弱点が存在する。事前に設計された動きと綿密な準備によって成立する戦術である以上、どれほど複雑なサインプレーを準備したとしても、現代の高度な映像分析技術をもってすれば、その狙いやパターンはすぐに見破られてしまう。

事実、セットプレーを最大の武器としているアーセナルは、昨季行われたUEFAチャンピオンズリーグの試合で、リーグアンに所属するモナコによってその戦術を見事に「無力化」されてしまった。対戦相手が用いた対策は、実にシンプルかつ天才的なものだった。通常であればコーナーキック守備では自陣深くに人数を割くが、モナコはあえてハーフウェイライン付近に3人を残したのである。

この配置によって、アーセナルはカウンターリスクを無視できなくなった。結果として、自陣に守備要員を残して対応せざるを得なくなり、本来得意としていた「ゴール前への大人数投入」が不可能に。特にゴールキーパー周辺へ人数を密集させ、相手の動きを制限する彼らのセットプレー戦術は、人数不足によって機能不全に陥った。

つまり、モナコは複雑な駆け引きではなく、極めてシンプルな配置変更だけでアーセナル最大の武器を無力化してみせたのだ。この事例は、どれほど完成度の高いセットプレーであっても、研究と対策次第で封じ込められることを示している。同様の対策はチェルシーやブライトン・ホーブ・アルビオンなどでも採用されている。

このように、相手に攻略法を見出された瞬間に手も足も出なくなるのは、セットプレー依存型チームの典型的な脆さと言える。一度パターンを封じられてしまえば、代替となるオープンプレーの攻撃手段を持たないため、成す術なく試合の主導権を失うことになる。

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名前:秕タクオ

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