
FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会に出場中のホン・ミョンボ監督率いる韓国代表は、6月12日のグループリーグ初戦でチェコ代表を相手に逆転勝利を収め(2-1)、最高のスタートを切った。しかしその直後、エースFWであるソン・フンミン(ロサンゼルスFC)への兵役揶揄を含む不適切発言がメディア関係者によって収録・流出するという”場外戦”が勃発。W杯の舞台で兵役免除をめぐる議論が再燃することとなった。
韓国では、男性の兵役義務が国民的な関心事だ。国際舞台で活躍するサッカー選手が免除を受けるケースが目立つ一方で、一般男性の負担や制度の曖昧さが批判を生んでいる背景がある。ここでは、日本の隣国でありながらもその実態を良く知られていない制度の概要、免除規定の背景、選手が直面する現実、そして批判が集まる理由を検証したい。
揶揄から取材拒否へ、W杯を揺るがした騒動の経緯
騒動の発端は、6月7日にJTBC(中央東洋放送)が公式YouTubeチャンネルでライブ配信したベースキャンプ地、メキシコ・グアダラハラでの公開練習映像だ。メディア関係者とみられる人物がソンのランニング姿に対し「軍隊にも行っていないクセに」といった内容の発言をしたことが収録されており、SNSで急速に拡散。KFA(大韓サッカー協会)は6月15日に声明を発表し、「チームに衝撃と失望をもたらした」と遺憾の意を表明した。
ドイツ紙『ビルト』によると、同日、韓国代表イレブンが大会中の取材対応をボイコットするに至った。JTBC側が謝罪したことでボイコットは解除され、MFイ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)やDFキム・ミンジェ(バイエルン・ミュンヘン)といった一部主力選手は取材対応を再開したが、被害者であるソン自身は深い精神的ダメージを考慮され、依然として個別取材には応じていない。
この騒動の最中、6月19日グループリーグ第2戦のメキシコ戦では完封負け(0-1)を喫した。韓国メディアは不発に終わった攻撃陣、さらに結果的に敗戦に繋がったGKキム・スンギュ(FC東京)の不運なキャッチミスを殊更に批判し、チームとメディアの関係が完全に壊れてしまっていることを示した。バチが当たったワケではないだろうが、JTBCを含む中央グループ系列の5社が6月15日にデフォルト(債務不履行)を宣言し、回生手続き(日本でいう民事再生手続き)に入った。W杯放映権取得も重荷になったと言われている。
韓国男性に課せられる兵役義務とその背景
韓国では、男性は19歳を迎える年に徴兵検査を受け、結果により1~4級で兵役が義務付けられる。期間は陸軍で約18か月、海軍で約20か月、空軍で約21~22か月とされる。30歳の誕生日までに履行する必要があり、北朝鮮との緊張関係を背景に、国民の多くがこの制度を国家防衛の基盤と位置付けている。
ただし、兵役期間中の環境については課題も指摘される。集団生活でのトラブルや、人間形成の上で重要な20代のうち、長ければ約2年弱も奪われてしまうのだから、キャリア形成への負の影響は重大だ。しかしながら、制度自体は社会全体の公平性を重視する観点から今でも維持され、廃止論は聞こえてこない。
その根底には、1950年に勃発した朝鮮戦争がある。1953年に板門店で休戦協定が調印され、韓国と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を分ける現在の軍事境界線(北緯38度線)が設定された。これはあくまでも「停戦」であり、「終戦」ではない。幾度も平和条約や終戦宣言の実施が試みられたが、いずれも実現に至らず、国際法上、未だに韓国は北朝鮮と”戦争中”の状態にある。
コメントランキング