
兵役免除の条件とサッカー選手たちの選択
特例での兵役免除の主な条件は、スポーツ分野で「国の評価を高めた」場合に適用される。具体的に、W杯とオリンピックで銅メダル以上、アジア大会で金メダルを獲得した選手が対象となる。サッカーでは、2018年アジア大会(インドネシア・ジャカルタ)での優勝がこの典型例だ。
ソンはこの大会時、プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーで主力として活躍していたが、国際Aマッチでもない同大会に、クラブに代表合流を願い出て参戦、オーバーエイジ枠として韓国U-23代表に加入。決勝では日本U-21代表を延長の末に2-1で下し、金メダル獲得により兵役免除の資格を得た。
当時の日本代表イレブンには、W杯に参戦しているFW上田綺世やDF板倉滉も出場していたが、韓国代表イレブンと比べれば”背負っているもの”の重さが勝敗を分けたとも言えよう。同様に2023年アジア大会(中国・杭州)でも金メダル獲得で、MFイ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)、DFソル・ヨンウ(ツルヴェナ・ズヴェズダ)らが兵役免除の権利を得ている。
免除を受けた選手は当然ながら、キャリアを継続しやすくなる。欧州での活躍が期待される選手にとって、約2年間のブランクは大きな影響を及ぼす。Jリーグのクラブでも韓国人選手獲得の際、兵役を済ませているかどうかを重視している。例えば、清水エスパルスFWオ・セフンは、軍隊チーム(尚州尚武FC、金泉尚武FC)に所属したことで、兵役を済ませた。
BTSとの比較「公平性」への根深い疑問
こうした特例が批判を浴びる理由の一つは、適用基準の曖昧さにある。「国の評価を高めた人」という表現が、スポーツ以外の分野、例えばKポップアイドルなどとの比較で不公平感を生んでいるからだ。世界を股に掛けて活躍するBTSのような韓国文化の功労者とスポーツ選手の扱いの違いが、議論の対象となる(BTSのメンバーは時期をずらしながら、それぞれ兵役義務を全うした)。
アジア大会金メダルなどの実績が「一発勝負」のように映る点も、公平性を疑問視する声に繋がっている。制度の恩恵を受ける選手と、義務を果たした一般男性との間の感情的な溝は、依然として深い。
免除後も続く義務、ソンが切り開いた道
免除はあくまで特例であり、基礎軍事訓練や社会奉仕活動は引き続き求められる。ソンらは2020年に約4週間の基礎軍事訓練を完了し、以降は現役選手としての活動と社会奉仕活動(544時間程度)を義務付けられている。軍のサッカークラブである金泉尚武FC(2026年シーズンをもって金泉市との協約が満了し、Kリーグ2部から再スタートすることが決まっている)で兵役を消化する選択肢もあるが、海外移籍や学業を理由に延期する場合も約28歳までという年齢上限があり、どうしても選手のキャリアに影響を与える。
ソンの場合、アジア大会という”ワンチャンス”をモノにし兵役免除を勝ち取ったことで、その後のプレミアリーグでの活躍が可能となり、プレミアリーグ得点王(2021/22シーズン、FWモハメド・サラーとともに)にも輝いた。
こうした恩恵はサッカー選手だけに限らない。2008年北京オリンピックや2018・2023年アジア大会で金メダルを獲得した柔道やレスリング選手、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で躍進した韓国野球代表、さらにゴルフやeスポーツの選手にも兵役免除の特例が適用されてきた。サッカー選手だけが批判の的になるのは的外れとも言えよう。
兵役免除が映し出す韓国社会の深層
韓国代表選手の兵役免除を巡る批判は、単なる羨望や嫉妬を超えた、社会構造の問題を反映している。国家への貢献の基準をどう設定するか、特例が選手のモチベーションや国民感情に与える影響、さらにはグローバル化が進む中で制度をどう現代化するかが問われている。
今回の騒動は、W杯という舞台で選手が集中すべきタイミングで起きただけに、協会の対応や今後のメディアの在り方が注目される。韓国における徴兵制度自体が無くなることは現実的ではないが、制度の見直し議論が深まる中で、公平性と競技力向上のバランスが模索されるだろう。
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