
プレミアリーグ(イングランド1部)の熱狂が終盤戦へと向かう中、1月の移籍市場で投じられた巨額資金が、順位表の景色を塗り替えつつある。
負傷者の続出や戦術の行き詰まりといった各クラブが抱える切実な事情に対し、的確な補強で活路を見出したチームがある一方、巨額を投じながらも混迷を深めたケースも見られる。冬の補強がもたらした光と影、その勝者と敗者の輪郭に迫る。
勝者:マンチェスター・シティ
ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いるマンチェスター・シティは、今シーズン、より直線的で力強いフットボールへと舵を切った。この大胆な方向転換は、従来のスタイルで露呈していた控え層の薄さを補うための必然でもあった。冬の移籍市場では、プレミアリーグで実績十分の2人に8,000万ポンド(約172億円)を投じる決断を下している。
ボーンマスから6,250万ポンド(約134億円)で加わったFWアントワーヌ・セメンヨは、加入直後から異次元の輝きを放っている。1月の移籍以来、すべてのリーグ戦で先発に名を連ね、チーム最多となる5ゴールを叩き出した。公式戦全体でも8ゴール3アシストを積み上げ、さらにドリブル突破の試行回数と敵陣深くでのボール奪取数でもチームトップに立っている。監督が渇望していたダイレクトな攻撃の推進力を、彼は最高純度の形で体現してみせた。
守備陣の再建を託されたのは、クリスタル・パレスから2,000万ポンド(約42億円)で獲得したDFマーク・グエイだ。ヨシュコ・グバルディオル、ルベン・ディアス、ジョン・ストーンズといった主力DFの負傷離脱により、一時は若手主体で回さざるを得なかった最終ラインは、グエイの加入によって劇的な安定感を取り戻した。1月のデビュー以来、シティは無敗を維持。この期間における失点数8、被枠内シュート数35はいずれもリーグ最少で、彼の存在が鉄壁の守備を支える礎となっていることは明白だ。
勝者:ウェストハム・ユナイテッド
ウェストハム・ユナイテッドにとっての1月は、単なる補強の域を超えた再建のプロセスであった。22試合でわずか14ポイント、リーグワーストの43失点を喫し、クリーンシートはわずか1回。どん底に沈んでいたチームを立て直すべく就任したヌーノ・エスピリト・サント監督は、自身の理想をピッチで表現できる新たな核を求めた。
ラツィオから2,600万ポンド(約56億円)で加入したFWタティ・カステジャノスは、まさにその救世主となった。リーグ戦12試合で4ゴールを記録し、なかでもウルバーハンプトン・ワンダラーズ戦で見せた開始99秒の先制弾を含む2ゴールは、ファンの記憶に深く刻まれている。前線からの献身的なプレッシングと巧みな動き出しは、周囲の選手たちの潜在能力を呼び覚ました。その象徴がFWジャロッド・ボーウェンだ。
今季の8アシストのうち7つを2026年に入ってから記録し、FWクリセンシオ・サマーフィルもシーズン5ゴールすべてを冬以降に挙げている。カステジャノスが生み出すスペースが、攻撃陣に新たな活力をもたらした。
変革は守備面でさらに顕著だ。チェルシーからレンタル加入したDFアクセル・ディサシが、GKマッズ・ハーマンセンやDFジャン=クレール・トディボらと強固なユニットを形成した。1月12日以降の12試合で5回のクリーンシートを達成した事実は、それ以前の21試合で1回のみだった状況と比べ驚異的な進歩と言える。さらに、カステジャノスとディサシが揃って出場した試合の平均失点はわずか1.0にとどまり、彼ら不在時の2.1と比較してもその貢献度の高さは一目瞭然だ。
勝者:ボーンマス
独自の戦略で成功を収めているのがボーンマスである。エースのセメンヨを売却するというリスクを負いながら、19歳のMFライアンを2,470万ポンド(約53億2,000万円)で獲得した。ライアンはデビューから3試合で2ゴール1アシストを記録し、ロビー・キーンやアンソニー・マルシャルといった名手に並ぶ記録を打ち立てた。
しかし、ボーンマスの真価は戦術面での再構築にある。セメンヨの個の力に依存していた攻撃から脱却し、守備の組織化へと大きく舵を切った。その結果、1試合あたりの平均失点は1.90から0.83へと大幅に改善。12試合無敗という驚異的な安定感は、エース流出の喪失感を完全に払拭している。
勝者:ノッティンガム・フォレスト
ノッティンガム・フォレストは、監督交代という“最大の補強”で残留への道を切り開きつつある。2月に就任したヴィトール・ペレイラ監督は、ヌーノ体制以降で最高となる1試合平均1.3ポイントという勝ち点を記録。チームに確かな上昇気流をもたらした。
さらに、アストン・ビラとのUEFAヨーロッパリーグ準決勝に進出しており、リーグ戦でも劣勢の展開から8ポイントを拾う粘り強さを植え付けた。トッテナムに5ポイント差をつけて優位に立つ現状は、冬の市場で派手な補強に動かずとも、指揮官の手腕ひとつで風向きを変えられることを証明している。
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