
今2025シーズンのJ1リーグは折り返し地点に差し掛かり、真夏の酷暑の中での戦いに入ろうとしている。3連覇を目指しながらスタートダッシュで出遅れたヴィッセル神戸も本調子を取り戻し(現時点3位)、柏レイソル(現2位)や京都サンガ(現4位)といった戦前の予想を覆す健闘ぶりも目立つ。
また、戦っているのは選手だけではない。各クラブのフロント(強化担当)も、限られた強化費の中でいかにしてチームを強くできるか、日夜頭を痛めている。外部の人間はとかく「お金を掛ければ強くなる」と思いがちだが、その考えは本当なのか?
ここでは、2025シーズンにおけるJ1全20クラブの推定強化費と勝ち点の因果関係を分析。勝ち点1を得るためにどの程度のコストがかかっているのかを明らかにし、コストパフォーマンスの良いクラブと悪いクラブを明らかにしていく。

J1リーグ20クラブの勝ち点1あたりのコスト
以下は、2025シーズンのJ1リーグ20クラブの推定強化費と、6月26日時点の勝ち点(21試合消化時点)をまとめたものだ。勝ち点1あたりのコスト(強化費÷勝ち点)は、強化費の効率性を示す指標となるだろう。
そもそも強化費とは、選手の獲得費や年俸、コーチングスタッフの報酬、育成部門への投資など、チームの競技力を高めるために投じられる費用の全てを含む。Jリーグでは公式に強化費のデータを公開していないため、移籍金、選手の年俸等の報道、ここ数年の推移から推定した金額となる。
2025シーズンJ1順位(21試合消化時点)クラブ名:推定シーズン強化費/勝ち点(21試合消化時点)/勝ち点1あたりのコスト(億円)
- 鹿島アントラーズ:26億円/41/0.63
- 柏レイソル:27億円/38/0.71
- サンフレッチェ広島:30億円/36/0.83
- ヴィッセル神戸:38億円/36/1.05
- 川崎フロンターレ:32億円/35/0.91
- 京都サンガ:23億円/35/0.65
- 浦和レッズ:43億円/34/1.26
- セレッソ大阪:20億円/33/0.60
- 町田ゼルビア:35億円/31/1.12
- アビスパ福岡:16億円/29/0.55
- ガンバ大阪:28億円/28/1.00
- 清水エスパルス:24億円/27/0.88
- ファジアーノ岡山:12億円/27/0.44
- 名古屋グランパス:29億円/24/1.20
- 東京ヴェルディ:13億円/24/0.54
- FC東京:26億円/20/1.30
- 湘南ベルマーレ:13億円/22/0.59
- アルビレックス新潟:11億円/19/0.57
- 横浜FC:23億円/19/1.21
- 横浜F・マリノス:37億円/14/2.64

コストパフォーマンスの良いクラブ
一般に単純比では強化費が高いクラブが上位に位置する傾向が見られるが、前述のデータからは予算だけが成功を保証するわけではないことがわかる。
また、勝ち点1あたりのコスト(強化費÷勝ち点)は、予算の使い方や監督の戦術、新加入選手のフィット感などが、強化費の効果を大きく左右することを示している。例えばクラブの目標が「優勝」なのか「J1残留」なのかによっても変わってくることから、同コストが高くて優勝を目指すヴィッセル神戸、浦和レッズなどを指して一概に「コスパが悪い」とも言い切れない。
まずは、今シーズン初のJ1を戦うファジアーノ岡山が、勝ち点1あたりのコストが最も低く(0.44億円)、低予算で多くの勝ち点を獲得していることがわかる。
神戸(現4位)の場合、2連覇中の王者として高予算を生かして質の高い選手を揃え、吉田孝行監督の戦術が投資に見合った安定した結果を生んでいる。柏レイソル(現2位)のリカルド・ロドリゲス監督は、教え子の選手を積極的に獲得した上で攻撃的なスタイルを採り入れ、チームを活性化させた。
京都サンガ(現6位)やアビスパ福岡(現10位)も、低予算で効率的に勝ち点を得ており、コストと勝ち点のバランスが良いクラブと言えよう。セレッソ大阪(現8位)も中程度の予算ながら安定した成績を維持。若手育成と的確な補強のバランス、監督の采配が成功の鍵となっている。

コストパフォーマンスの悪いクラブ
一方、最も非効率なのが最下位に沈む横浜F・マリノスで、勝ち点1を拾うのに約2.64億円も費やし、コストパフォーマンスが悪いと言える。中心選手のケガによる戦線離脱や、度重なる監督交代による停滞が原因とみられ、高額な強化費の効果が十分に発揮されていない。
また、名古屋グランパス(現14位)の長谷川健太監督は、低いシュート数とxG(リーグ4位の低さの39.5)が課題で、強化費に見合った攻撃力を発揮できていない。川崎フロンターレ(現5位)はエリソンのケガによる離脱が攻撃力低下を招き、強化費の効果を薄めている。チーム内の選手の相性やケガ人の影響ばかりは、予算だけではカバーできない要素だ。
東京ヴェルディ(現15位)もまた、昇格2年目のクラブが陥りがちな「セカンドシーズン症候群」に苦しみ、強化費に見合った結果を残せていないと言える。
20クラブ中、最も予算の低いアルビレックス新潟(推定強化費11億円/現18位)は、若手選手の積極起用とスカウティングによりJ1残留に挑戦しているが、思うように勝ち点に繋がらず、6月22日に樹森大介前監督が解任され、入江徹氏が新監督に就任した。シーズン当初からコスパを重視し過ぎた結果とも言えるだろう。
クラブの成功には、資金力だけでなく、戦略的な補強、戦術の最適化、選手のコンディション管理が不可欠だ。選手のフィット感、スカウティングの質については、スポーツディレクター(SD)などといった強化担当者の腕の見せ所でもある。特に、限られた予算で堅実な成績を上げるクラブの事例は、J1リーグの競争力の高さと多様性を示している。
夏の移籍期間(7月7日~8月20日)が残されていることから、シーズン後半に向けて各クラブがどのように強化費を活用し戦術を調整していくのか、引き続き注目していきたい。
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