夏の移籍期間の動き
これら前線のタレントが揃い、それぞれのストロングポイントを発揮した結果が首位という形で表れた町田。しかし夏の移籍期間に、平河がEFLチャンピオンシップ(イングランド2部)のブリストル・シティに移籍してしまう。当初は2シャドーの一角として起用されていたが、守備意識の高さから右ウイングバックにコンバートされるという皮肉な現実に直面しながらも、18試合消化時点で2得点1アシストの結果を残していた。
「彼の夢を後押ししたい」と快く送り出した町田フロントだったが、本気で優勝を狙うのであれば、せめてあと半年引き留めるという選択肢はなかったのだろうか。23歳の若さながら、実質上4年目を迎えるチームの中心選手の退団は、その戦力以上にチームの穴となる。しかも移籍金が入らないレンタル移籍だ。少々お人好しが過ぎたのではないだろうか。
平河の代役探しと戦力アップのため、町田フロントは夏の移籍期間に積極補強に動く。EFLチャンピオンシップのハダースフィールド・タウンとの契約を満了した元日本代表DF中山雄太の獲得に始まり、Jリーグ間の移籍では異例ともいえる推定3億4,000万円もの移籍金を払い、名古屋グランパスから元日本代表FW相馬勇紀を獲得。さらには湘南ベルマーレからDF杉岡大暉、清水エスパルスからMF白崎凌兵をレンタルで加入させた。
一方で、カップ戦要員となっていたMF高橋大悟を大分トリニータに、MF宇野禅斗を清水にレンタル移籍させ、総勢13人もの選手を放出した。高橋も宇野も移籍先ですぐにレギュラーポジションをつかみ、宇野に至っては移籍即スタメン出場した8月3日のJ2第25節ベガルタ仙台戦で、いきなり挨拶代わりのミドルシュートまで決めてみせた。
少々、清水側からの目線が入ってしまうが、宇野のような好選手を放出し、ベンチを温めることが多かった白崎を獲得する町田の補強戦略に疑問を感じたファンは多かったはず。しかし黒田監督は白崎を8月7日の第25節セレッソ大阪戦で途中出場させた後、8月11日の第26節湘南戦からは最終節まで先発起用。白崎もその期待に違わぬ働きを見せ、ボランチとして中盤の底を締めるだけではなく、1得点1アシストを記録。見事なまでに再生した。結果論ではあるが、町田にとっても清水にとっても「ウィンウィン」のトレードだった。
しかし、中山は加入して4試合目の第30節アビスパ福岡戦で負傷して長期欠場を強いられ、相馬も2列目起用によって、その卓越した得点力を生かし切ったとは言えなかった。
その間、大卒ルーキーの右サイドバックDF望月ヘンリー海輝が台頭し、日本代表にまで選ばれるほどに成長したが、下降気味だったチームの雰囲気を一変させる役割を任せるには、あまりにも酷だった。
さらなる補強で“シーズン2”に期待
町田の社長である藤田晋氏は、ABEMAで配信中の『ZELVIA 異端の新参者』で、「(この夏に)来年分の補強もしたつもり」という趣旨の発言をしている。この選手層では、ACLも戦う来季を乗り切るのは、いくらやり繰り上手でシーズン終盤には3バックにフォーメーションを変更しチームを立て直した黒田監督でも難しいミッションとなるだろう。
その黒田監督もシーズンが進むにつれ、優勝へのプレッシャーやピッチ外での騒ぎが要因と思われる睡眠障害に陥り、導入剤を服用していたと同番組で告白している。おそらく監督のみならず、選手も試合と並行して、そうした重圧と闘っていたと思われる。その中での3位フィニッシュには、賛辞を贈りたい。
来シーズンは、福岡の監督に就任した金明輝前ヘッドコーチに代わり、有馬賢二氏がヘッドコーチに就任する町田。有馬氏はJ3のY.S.C.C.横浜(2014-2015)、U-15/17日本代表(2017-2018)、当時J2のファジアーノ岡山(2019-2021)で監督を歴任したが、通常、特に日本人監督の場合、監督経験のあるヘッドコーチを招聘することを敬遠する指揮官が多い。“代わり”が横にいることで、成績次第ですぐにでもクビにされる体制が整ってしまうからだ。
そんな些末なことを抜きにして、有馬氏を新たな右腕として来シーズンに挑む黒田監督。しかし、まずやるべきことは、一貫して強化担当としてのキャリアを進んでいる“強化のプロ”原靖FD(フットボールダイレクター)を通じて、藤田社長にさらなる補強を勧めることだろう。
来シーズンはマークがさらに厳しくなることが予想される中、現状維持の道を進むことは、すなわち“後退”を意味し、マンネリ化というリスクも抱えることにもなる。研究され尽くしたことで、今シーズンと同じ戦い方では通用しないと思われる。真価を問われることになる黒田劇場“シーズン2”に期待したいところだ。
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