
2024シーズンの明治安田J1リーグは、ヴィッセル神戸の連覇&天皇杯との2冠で幕を閉じた。年間総入場者数が過去最多の1,254万265人を記録。「THE国立DAY」と銘打ち国立競技場を積極的に活用した影響もあるとはいえ、入場者数だけでいえば、完全にコロナの影響を脱したと言えそうだ。
昨2023シーズンからの入場者数増加率では、新スタジアム「ピーススタジアム広島」での初年度だったサンフレッチェ広島(平均25,609人、前年比プラス9,481人)が約1.6倍。J1初昇格ながら最終節まで優勝争いに加わった町田ゼルビア(平均17,610人、前年比プラス10,184人)が約2.3倍とアップ率が目立つ。その中で最大の増加率を誇ったのが、16年ぶりにJ1の舞台に戻ってきた東京ヴェルディだ。
東京Vは、J2だった昨シーズンの平均7,982人から実に約2.6倍となる平均20,976人を集めた。開幕戦の横浜F・マリノス戦を国立競技場で開催し53,026人の大観衆を集めたとはいえ、前年比でなんと平均12,994人増だ。しかも、ホームのリーグ戦では一度も1万人を切ることはなかった(最低記録は3月29日の金曜ナイターで開催された第5節京都サンガ戦の10,060人)。
もちろん、Jリーグ創立当初からの名門クラブでありながら、長らくJ2で戦うことを余儀なくされていたことで離れていたファンが戻ってきたことも理由の1つだろう。さらに助っ人外国人がGKマテウスと、ほぼ試合に絡めなかったMFチアゴ・アウベスのみという“準国産チーム”でありながら、6位という好成績を残したことも大きな要因だ。ここでは東京VのV字回復の裏側を読み解く。

コロナ禍の2年間だけで赤字は約10億円
2005シーズンJ1で17位に終わり、2006シーズンからJ2を戦ってきた東京V。時を同じくして、主要株主の日本テレビに加えサイバーエージェントが経営に参画するが、サイバー社CEOの藤田晋氏はフロントの内紛状態に嫌気が刺し、わずか2年で株式を売却。その後、2009年には日テレも、新たな設立された持ち株会社「東京ヴェルディホールディングス株式会社」に全株式を譲渡。読売クラブ時代から続いてきた読売グループとの関係が完全に切れた。
しかし、その際にJリーグ理事会で報告された約5億4千万円とされていたスポンサー料が、実際にはその半分ほどしか入金されず、新運営会社は早々に資金ショートの危機に陥る。2010年には、Jリーグの関連会社である「株式会社ジェイリーグエンタープライズ」に株式の約98.8%が譲渡され、旧経営陣は一掃。当時Jリーグ事務局長を務めていた羽生英之氏が社長として派遣され、実質上“Jリーグ傘下”となる。
その後、2010年からスポンサーの1つとしての関係を持っていた福島県に本社を置くゼビオホールディングス株式会社がオーナー企業となるのだが、Jリーグによる“延命措置”がなければ、現在、「東京ヴェルディ」というクラブは存在していなかったかも知れないのだ。
その間、新興宗教ワールドエンドの教祖である深見東州氏が持つ関連会社や、オンラインゲーム会社の株式会社アカツキなど、次々とスポンサーが変わっていく時代が続き、経営的にも成績的にも暗黒期を迎える。
ゼビオの出資によりようやく経営が安定するかと思ったところ、今度はコロナ禍がクラブを襲う。2020年度と2021年度の2年間だけで赤字は約10億円にも上った。東京Vは、プロサッカークラブやその下部組織、女子サッカーのみならず、バレーボールやホッケー、セパタクロー、eスポーツなど、マルチスポーツスクールを展開しているのだが、その活動が全て停止させられたことが響いた形だ。
コロナ禍に苦しんでいることは株主のゼビオも同じで、東京Vの増資に当初否定的な見解を示し、再び運転資金がショートしかかる。しかし最終的にゼビオは救いの手を差し伸べ、新株予約権を行使。東京Vはゼビオの連結子会社となることで、ゼビオホールディングス副社長の中村考昭氏を社長に迎え、新体制で再出発し、同時に羽生社長が退く。
そして、地域密着型総合スポーツクラブとしての草の根活動が、コロナ禍明けに実を結ぶことになる。
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