Jリーグ ガンバ大阪

史上初の大阪ダービー3連戦。「解任ブースト」に敗れたG大阪に“緊急事態宣言”の訳

ガンバ大阪DFキム・ヨングォン 写真提供:Gettyimages

出場すれば「勝点4倍」の“ヨン様”

そんな苦しい中でも勝点を少しずつ積み上げられているのは、1試合平均1失点の27失点(リーグ9位)に抑えている守備陣の奮闘であるのは間違いない。

特に韓国代表のセンターバック(CB)金英權(キム・ヨングォン)が出場したリーグ戦11試合の成績は7勝1分3敗。今季獲得した勝点30のうちの22は彼がフル出場した試合である。しかもその11試合で記録した得失点は13得点7失点。無失点試合も6を数える。今季は開幕直後からコンディション不良による欠場が続いていたが、際立つ存在感を放っている。キム・ヨングォンが出場すれば1試合平均の勝点は欠場時の「0.5」から「2.0」へと4倍にも上昇する。逆に欠場すればチームは最下位独走のような結果しか残せていないのである。(以下の表を参照)

「ガンバ大阪DF金英權の出場で大きく変化するチーム成績」作成:筆者

キム・ヨングォンは韓国の全州大学校から20歳だった2010年にFC東京へと加入し、翌2011年からは大宮アルディージャに1年半在籍。Jリーグでのプレーは今季で6シーズン目を迎えているが、現在31歳にして未だ母国のKリーグでプレーしたことがない。また、数え年で30歳までに兵役が義務化されている韓国にあって、2012年のロンドン五輪で母国の銅メダル獲得に大きく貢献したことで免除となっている。

187cmの長身と打点の高いヘディングで対人守備に強いキム・ヨングォンはCBだけでなく、左サイドバックも務めるユーティリティ性も備える。加えて、最終ラインから中盤までドリブルで待ち運んだり、左利き特有の軌道を描くロングフィードの正確さでゲームをコントロールできる「後方の司令塔」である。大宮在籍時にはセットプレーのキッカーを任されるほどで、その辺りは3位決定戦で日本を下して銅メダルを獲得したロンドン五輪でも存在感を示していた。

そして、2012年夏からは中国超級リーグの広州恒大に移籍。6年半の在籍で2013年と2015年にはAFCチャンピオンズリーグ制覇も経験してアジア王者となっているが、2016年以降は怪我の影響もあって出場機会は少なくなっていた。

その影響だろう。G大阪に加入した2019年は秋頃まで対人を避けるような守備対応をしていた。試合勘を含めたコンディション不良が続いていたのだろうが、彼のトップパフォーマンスが整うとチームは息を吹き返した。G大阪は2019年に終盤までJ1残留争いを強いられたが、彼の復調によりラスト9試合を6勝1分2敗で駆け抜けたチームは最終的に7位まで浮上した。そして、2020年には近年残留争いが常態化していたチームがリーグでも天皇杯でも準優勝。チームの躍進を支える大黒柱となった。


ガンバ大阪DF三浦弦太 写真提供:Gettyimages

“ヨン様”欠場をベスト布陣を定める機会に

低迷が続く今季も彼が出場すれば好成績を残しているだけに、現在のG大阪は“ヨン様”ことキム・ヨングォンがいなければ何もできないと言っても過言ではない。しかし、彼は代表ウィークで韓国代表に招集され、このルヴァン杯のダービー2試合を欠場する。G大阪にとっては緊急事態だ。

G大阪は開幕直後の新型コロナウイルス感染症のチーム内クラスター発生により延期した試合を消化するため、この夏場に15連戦という超過密日程が組まれていたが、このダービー3連戦でそれを消化し終える。

過密日程下では守備重視の実質5バック化する3バックでしぶとく勝点を積み重ね、時には4バックで攻撃的に挑む試合もあった。キム・ヨングォンの存在が大きかったのもあるが、現チームで最も実力者が揃うのがCB陣であるからこそ、3バックと4バックの併用が可能であったのも確かである。

昌子源や三浦は日本代表歴のあるCBで、本来は彼等がDFリーダーにならなければいけない。また、大学ナンバーワンと評されて加入した大卒新人の佐藤瑶大は直近のJ1第26節、横浜FC戦の前半終了間際に退場処分を受け、挽回を誓って準備を整えているはずだ。下部組織出身の菅沼駿哉は他クラブで経験を積んで帰還した苦労人だが、やや波がある主力DF陣とは違って与えられた機会をものにできる強かなDFだ。

G大阪にとって今回のルヴァン杯大阪ダービー2連戦は、過密日程も解かれる終盤戦に向けてベスト布陣を定める良い機会である。ヨン様離脱は痛いが、代表クラスのCBが揃う陣容と得点力不足が顕著なチーム状態の中、攻守のバランスとチームの最大値を引き出す最適解をどう組み合わせるのか?「ミスター・ガンバ」松波監督の手腕が問われる。

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