
7月20日にスペインの優勝で幕を閉じたFIFAワールドカップ(W杯)北中米大会は、出場国48か国への拡大により総試合数が104試合に増え、史上最大規模となった。
この大会では、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入範囲拡大や新ルールの導入、ボール内蔵センサーなどのテクノロジー活用が、判定をめぐる激しい論争を呼んでいる。正確性を目指したはずの技術が、かえって試合結果に直結する微妙な判断を生み、ファンから疑問の声が上がっている。
ここでは、今大会で起きた主な事例を振り返り、テクノロジーの限界や誤審の可能性、さらには政治的介入の影を検証する。さらに、元国際審判員の発言も交え、将来的にピッチ上の人間審判が減る可能性について考察したい。

準々決勝で大論争を呼んだ「ワイヤー接触」疑惑
大会中盤以降、重要な試合で判定が勝敗を左右するケースが目立った。7月12日の準々決勝、イングランド対ノルウェー(2-1)でのシーンが象徴的だ。
前半アディショナルタイム、イングランド代表MFジュード・ベリンガムが同点ゴールを決めた直前、ノルウェー代表GKエルヤン・ニーランが蹴り上げたボールが、スタジアム上部のスパイダーカメラのワイヤーに接触した可能性が浮上した。
映像ではかすめたように見え、ノルウェー側が抗議したが、FIFA(国際サッカー連盟)は公式球内蔵の「コネクテッド・ボール・テクノロジー」で「衝撃は検知されなかった」と否定した。ノルウェーのストーレ・ソルバッケン監督は「ボールはまっすぐ落ちてきた」と主張。一方、イングランドのトーマス・トゥヘル監督は、幸運を認めつつデータを信頼すると語った。
この「ブラックボックス」的な判断は、テクノロジー判定の難しさを浮き彫りにした。国際サッカー評議会(IFAB)の規則では、屋根や上空構造物への接触時、最後に触れた選手の相手チームにドロップボールが与えられるが、会場ごとのローカルルールが優先される場合もある。

大げさなファウルアピールが減る効果も
同日のもう一つの準々決勝、アルゼンチン対スイス(3-1)では、1-1の後半27分、主審が当初アルゼンチンMFレアンドロ・パレデスのファウルとしてイエローカードを示した。
しかし今大会で拡大された「2枚目イエローに対するVARレビュー」により、スイスFWブリール・エンボロのシミュレーションと判定が覆った。エンボロは2枚目の警告で退場となり、スイスは数的不利を強いられ、延長戦にまで持ち込んだが、結局は敗れた。
スイスのキャプテン、MFグラニト・ジャカは「1つの判定で敗れるのはつらい」とコメント。この事例は、VAR拡大が試合の流れを変えるだけでなく、「やったもの勝ち」のシミュレーションを抑止する効果も示した。こうした芝居じみたプレーに罰則が与えられたことで選手側の意識が変わることも期待される。
さっそく効果が表れた新ルールも
今大会から導入された「口を覆って相手に話し掛ける行為の禁止」も、さっそく効果を発揮した。UEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)での、レアル・マドリードのブラジル代表FWビニシウス・ジュニオールに対する差別発言をきっかけに生まれたルールである。
グループリーグのパラグアイ対トルコ戦(6月20日/1-0)で、パラグアイ代表MFミゲル・アルミロンがこの行為を行い、退場処分となった。ルールの周知が徹底されていたにもかかわらず起きた出来事は、サッカー界に残る差別の根深さを改めて浮き彫りにした。
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