
税収・経済への影響は限定的か
クラブハウスの移転は経済効果だけでなく、運営企業である株式会社鹿島アントラーズFC(本店登記は茨城県鹿嶋市粟生東山)の税務にも大きな変化をもたらす可能性がある。
本店登記も潮来市へ移す場合、法人住民税(市民税分)や固定資産税の納税先が鹿嶋市から潮来市へ完全移行する。一方、本店を鹿嶋市に残したまま施設(事業所)のみを移転する場合は、従業員数などを基準とした按分で両市に税収が分配される。国税(法人税)の管轄はいずれも潮来税務署のため変更はない。ただし、本店所在地の移転については、クラブも潮来市も明確に否定している。鹿嶋市にとって税収減の懸念は最小限に抑えられるはずなのだが、田口市長が一連の経緯にこれほど強く反発する根本的な理由はどこにあるのだろうか。
確かに、練習見学に訪れるサポーターが潮来市に流れることは痛手だが、その数は多く見積もっても1日1,000人前後だろう。「日常的な経済効果の流出が懸念される」という主張は、説得力としてはやや弱い。潮来市は新クラブハウスの整備による地域スポーツの活性化を目指しており、そこから生じる経済的影響こそが、田口市長の強硬姿勢の背景にあると思われる。
「段階を踏んだ」潮来市の反論
原浩道潮来市長は2026年6月1日の定例記者会見で、鹿嶋市側に対して「段階を踏んで説明と話し合いを重ねてきた」との認識を示した。2025年7月には移転関連の提案書を共有したとしている。田口市長の反応については「率直に驚いた」と語った。
浸水想定区域との指摘に対しては「土地のかさ上げなどで災害対応は可能」と説明し、アクセス向上による利便性改善にも期待を示している。

メルカリ体制の実績と地元の溝
鹿島アントラーズは2019年、買収額16億円で経営権が譲渡(株式約61%)され、当時は「叩き売り」との声や将来的な転売への懸念が一部で上がった。伝統的なクラブ文化とIT企業のカルチャーの相性を疑問視する声もあった。
しかし、メルカリは本気だった。オーナー就任後はDX推進やチケット転売対策にも積極的に取り組み、時間はかかったもののリーグタイトルの奪還も果たした。ホームの茨城県立カシマサッカースタジアムのネーミングライツを取得し「メルカリスタジアム」と改称するなど、地域との関係強化にも力を入れてきた。
今回の移転問題は、こうした変化の中でクラブの将来像と地元密着のバランスが問われているわけだが、突き詰めれば、田口市長自身がメルカリという会社、ひいては代表取締役社長でありメルカリ取締役会長でもある小泉文明氏への不信感を今なお抱え続けていることが大きいのではないだろうか。
市長就任時にはすでにメルカリがアントラーズのオーナー企業となっており、田口市長も非常勤取締役として表向きには強固なビジネスパートナー関係にある。しかし古くからの地元スポンサーや古株サポーターの間では、「見ず知らずの東京のIT企業」という見方が根強く残っているという。加えて、オーナー交代時、メルカリのマーケティング担当者が経営改革の方針を示す中で発した「竹やりじゃ戦えない」という発言への地元の反発も、その根底にあると考えられる。スタジアムの改称についても、地元に反感を生む遠因となっている。
対立を深刻化させる鹿嶋市長の強硬姿勢
鹿嶋市と潮来市はいずれもホームタウンであり、両市長の認識の違いが対立を深めている。同じくホームタウンの鉾田市の井川茂樹市長は両市に「よく話し合って決めてほしい」と伝えたというが、6月24日の朝日新聞の取材に対し、田口市長は「鹿嶋市にとってアントラーズがどういうものか知っているなら、まず正式にこちら(鹿嶋市)に言うべき」と述べ、潮来市に対しても「ダメと言われたら何回でも通うべき」と注文を付けた。田口市長の発言からは、クラブや他のホームタウンの事情をよそに、アントラーズに関わるすべてを鹿嶋市が主導したいという意向が透けて見える。
クラブハウスの移転は選手の練習環境向上を目指すものである一方、鹿嶋市・潮来市の地域活性化や税収、経済効果への影響も無視できない。施設の老朽化という現実的な課題と、長年にわたる歴史的なつながりの双方をどう調整するか、難しい舵取りが求められる。いかなる結論に至るとしても、「サポーター第一」の選択を求めたい。
現時点で移転は「検討段階」にあり、最終判断は2027年2月頃とされている。田口市長と小泉代表のトップ間で対話が進むかどうかが、今後の鍵となるだろう。
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