
2026年6月11日に開幕するFIFAワールドカップ北中米大会(アメリカ・メキシコ・カナダ共催)で、特にアメリカ国内の会場を中心に空席が目立つ「悪夢のシナリオ」が懸念されている。高額なチケット代や物価高に加え、交通運賃・宿泊施設の便乗値上げ、そしてドナルド・トランプ大統領の移民・ビザ政策や対イラン強硬姿勢という政治的要因が重なり、世界規模でのファン離れを招く恐れが出ている。
今大会から出場国が48か国に拡大され、104試合が行われる。FIFAは過去最多の観客動員を見込むが、一部試合ではチケットに余剰が生じているとの報道が相次いでいる。アメリカ国内での販売低迷が特に問題視されており、経済的ハードルと政治的緊張がファン心理に影を落としている。
また、事実上の1都市開催だった前回カタール大会と異なり、今大会は試合ごとに飛行機での大移動を伴うケースも多く、移動費と宿泊費が渡航の心理的ハードルを押し上げている。
平均34%値上がりのチケット、往復150ドルの電車代。ファンの財布を直撃する経済的壁
経済的な要因は空席問題の核心だ。FIFAは今大会で「変動価格制(ダイナミックプライシング)」を採用し、需要に応じてチケット価格を変動させる仕組みを導入。その結果、10月から4月にかけて全104試合のうち少なくとも90試合でチケット代が値上がりし、3カテゴリー平均で34%上昇した。最も安いグループステージ席の平均価格は、インフレ調整後で過去のW杯最安値記録を約50%上回っている。
具体例として、アメリカ代表の初戦(パラグアイ戦/現地時間6月12日/ロサンゼルス・スタジアム〈SoFiスタジアム〉)はカテゴリー1が2,735ドル(約44万円)、カテゴリー2が1,940ドル、カテゴリー3が1,120ドルに設定された。FIFAが開催地立候補時の入札書類に記載していた想定平均価格(約569ドル)の4倍以上の水準だ。
同試合は大会全体で決勝・準決勝に次ぐ3番目に高い試合とされたが、4月10日時点の販売実績は約40,934枚にとどまり、収容人数約69,650席に対して3万席近くが売れ残っている状態だ。FIFAはこの数字を「実態を正確に反映していない」と否定しているが、記事執筆時点でも1,120ドルからチケットが購入可能な状態が続いている。
交通機関や宿泊施設の高騰も問題だ。ニュージャージーのメットライフ・スタジアムで試合を観戦する場合、NJトランジット(ニュージャージー州交通局)の往復電車運賃がワールドカップ観戦者向けに150ドルに設定されることが決定した。
「コスト回収のためであり、暴利ではない」とNJトランジット側は説明するが、ニューヨーク州知事のキャシー・ホークルが「100ドル超の短距離電車代は高すぎる」とSNSで批判するなど、反発は広がっている。FIFAも「ファンを代替交通手段に向かわせ、渋滞や遅延を招く」と声明で懸念を示した。なお、ロサンゼルスやダラス、ヒューストンなど他の開催都市では通常運賃を維持している。
FIFAは500万枚以上のチケットが販売済みと主張し、1994年アメリカ大会の350万人超という総入場者数記録の更新を目指すとしている。しかし2025年のクラブW杯では高額チケットが売れ残り急遽値下げされた前例もあり、専門家からは「ダイナミックプライシングという賭けに勝てるかは不透明」との見方も出ている。
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