
イランは来られるのか。トランプ発言の迷走とファン入国制限の現実
政治的な要因も空席問題に影を落とす。トランプ政権は昨年、39か国の国民に対するビザ発給を制限する大統領令を発令。出場48か国のうちイラン・コートジボワール・ハイチ・セネガルのファンがアメリカ国内での試合を観戦できない状況に置かれている。一方、選手・コーチ・スタッフはFIFA主催大会への参加が適用除外とされており、イラン代表チームの「参加」自体は制度上は可能だ。
ただし、トランプ大統領の発言は一貫していない。2026年3月初旬、「イランが参加するかどうかは気にしない」と発言。ところが3月10日にインファンティーノFIFA会長がトランプ大統領と会談し、会長がSNSで「大統領はイラン代表を当然歓迎すると繰り返した」と公表した直後の3月12日、トランプ大統領は「イラン代表の参加は歓迎するが、彼らの生命と安全のためには、そこにいるのは適切ではないと思う」と自身のSNSに投稿。急転換した内容として世界中に拡散した。
4月に入ると、トランプ政権のグローバル・パートナーシップ特使パオロ・ザンポッリ氏が、イランの代替としてイタリア代表を招く案をトランプ大統領とインファンティーノ会長に提案したとファイナンシャルタイムズが報道。4月下旬にトランプ大統領は記者から問われ「あまり考えていないが、興味深い。少し考えてみよう」と含みを持たせた。しかし、イタリアのスポーツ相アンドレア・アボーディは「資格はピッチで勝ち取るものだ」と即座に否定。メローニ首相率いるイタリア政府もこの案を「不可能」として退け、事実上立ち消えとなった。
マルコ・ルビオ国務長官は「イラン選手は歓迎するが、イラン革命防衛隊(IRGC)関係者の入国は拒否する」方針を示しており、トランプ大統領も「選手に影響を与えたくない」と補足した。明確な参加拒否ではないものの、安全保障上の懸念を繰り返し強調しながら具体的な安全策を示さないこの「煮え切らない」姿勢が、イラン側の不安とファン離れを招いている。
空席スタジアムというFIFAの悪夢。問われる運営の責任
こうした要因が重なる中、「悪夢のシナリオ」として空席だらけのスタジアムが現実味を帯びつつある。トランプ政権の移民・ビザ政策への国際的な反発が、欧州や中東を含む海外からのファン減少につながるとの懸念は根強い。一部の州観光当局は収益予測を下方修正したとされ、NPRの取材に応じた複数のファンが「チケット価格とトランプ政権の政策の両方に嫌気が差した」として現地観戦を断念したと語っている。
責任の所在は曖昧だ。FIFAのダイナミックプライシングという「市場任せ」の価格設定と、内向きな政治姿勢が絡み合い、互いに相手を批判しながら問題が先送りされている印象は否めない。FIFA会長のインファンティーノ氏はトランプ大統領の就任式に出席し、昨年12月のW杯ドロー式典ではFIFA平和賞をトランプ大統領に授与するなど、両者の蜜月関係は周知の事実だ。その関係性が、政治リスクへの毅然とした対応を難しくしているとも映る。
1994年アメリカ大会は、オーランドで35度超、ダラスで38度超という酷暑の中、欧州向けのゴールデンタイムに合わせた昼間開催が選手の体力を著しく消耗させた。それでも大会は総入場者数358万人超という当時の世界記録を樹立し、財政的にも大成功を収めた。32年後の今大会は、その成功体験とは対照的な出発点に立っている。
大会開幕まで2か月を切った今、FIFAと開催国はチケット販売のてこ入れと安全対策の明確化を急ぐ必要がある。空席が目立てば、2026年北中米W杯は「史上最大の大会」ではなく、「高額で政治的に不安定な大会」として記憶されるリスクがある。ファンにとっての最大の願いは、純粋にサッカーを楽しめる環境だ。
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