
柏レイソル、ヴィッセル神戸、名古屋グランパス、ヴェルディ川崎元監督のネルシーニョ氏が15日、75歳で現役引退を表明。J1リーグ・Jリーグカップ・天皇杯の国内三冠すべてを制した名将が、60年のキャリアに静かに、しかし確信を持って幕を引いた。「私はサッカーを強烈に生きてきた。今はもう終わりにする」——ブラジルメディア『ge』に残したその言葉は、凡庸な引退コメントではない。
2月、同メディアのインタビューで語った内容がいま改めて注目される。コロンビア、チリ、サウジアラビアと渡り歩いた指揮官が「一番自分に合っていたのが日本」と断言した事実は、リップサービスではない。根拠は明確だ。
「サッカー部門を全面的に任せてもらえる。財務は別部門が管理する。だから現場は純粋にサッカーに集中できた」
この一言に、すべてが凝縮されている。ブラジルでは監督が補強予算や選手売却にまで口を出す慣行が根強い。それと真逆の分業体制を持つJリーグは、ネルシーニョにとって理想の「仕事環境」そのものだった。柏だけで計10シーズン。異常とも言えるその長期政権の裏には、戦術論でも資金力でもなく、「現場への信頼」という構造的な理由があった。
日本人選手への評価は、さらに具体的だ。「練習が9時なら、7時半にはクラブに来ている。入浴し、ジムで準備を整え、9時にはピッチに立つ」。この光景を「大きな違い」と形容した。90分の試合だけを見る者には見えない、日常の積み重ねへの敬意である。規律と準備の文化——それがネルシーニョをこの国に引き止め続けた。
来日当初、携帯電話すら手元になく、公衆電話から3分だけブラジルへ国際電話をかけていたという逸話も残る。それでも離れなかった。環境でも言語でもなく、「人」と「組織」への信頼が、異国の地での30年以上のキャリアを支えた。
「日本から帰国して以来、ずっとこのことを頭に置いてきた」と語る引退への決断は、日本を去った瞬間から始まっていた。それだけ、ネルシーニョ氏の日本サッカーに対する思いが強い証拠でもある。
コメントランキング