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バロテッリの複数の人格とJリーグならフィットする理由

写真提供: Gettyimages

マリオ・バロテッリは、今また話題の中心になっている。2018年8月に、子供の時から住んでいたイタリアのブレシアを本拠地とするブレシア・カルチョに移籍したが、どうやらこのチームにもフィットできずにうまくいっていないためだ。

どのチームに行っても、バロテッリは自分の居場所を見つけることができない。それはなぜだろうか?これまでにセリエA、プレミアリーグ、リーグ・アンに渡り、どのクラブともひどい別れ方をしてきた。

個人的に感じていることだが、バロテッリはパフォーマンスよりも彼の複雑な人生の方が注目されている。サッカーメディアがきつい言葉やピッチ外の話ばかりをアピールしすぎることで、彼のイメージは悪くなり、活躍に悪い影響を与えているのではないか。

もちろん、人のせいにするにはよくないことです。バロテッリが精神的に安定していない選手であることが一番の問題。しかし、なぜ彼がこうなったかを理解するためにはバロテッリの人生を振り返る必要があります。

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本当のバロテッリはどれ?

バロテッリの性格を一言で説明するのは無理に近い話です。まるで複数の人格があるかのように、これまでたくさんの「バロテッリ」が現れてきたからです。

まずは、一匹狼のバロテッリ。仲間を信用しない、ボールを回さずに一人でフィニッシュまで行く。ゴールを決めてもチームメートと一緒に喜ばない。試合中に何かを我慢しているかのように声出さずにプレーしている。また、相手にファールをされたらすぐに暴力を振るおうとする姿には、彼を応援してあげられない気持ちにさせられる。

愛されている子供っぽいバロテッリもいる。ゴールの時に、すぐ義理のお母さん(バロテッリは子供の時に養子に出された)を抱きしめに行く。そんな彼の姿には感動させられる。

醜いバロテッリといえば、2階のフロアーから仲間にダーツを投げたり、警察と揉めたり、トイレで花火に火をつけたり…。彼が繰り返してきた様々な事件は「バロテッラタ」(バロテッリ風)という言葉まで産み出し、イタリアの複数の辞書にも載っているそうです。

さらには、ブラジルで太陽エネルギーの会社を立ち上げ、仕事のない若手にチャンスを与えたり、道に座っていた貧しい人にいきなり現金で1000ユーロ(約12万円)を渡したりするなど、貧しい人を救うバロテッリも存在している。

この全てのバロテッリのどれもが演技などではない。全て同じ人の中にある人格です。

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バロテッリの幼少期

バロテッリの性格を理解するためには、彼の過去を振り返る必要がある。

彼はイタリアに暮らしていたガーナ移民のバルウアー夫妻から生まれた。生まれてすぐ、先天性の疾患であるヒルシュスプルング病(先天性巨大結腸症)で苦しみ、生後の1年間を病院で過ごした上、病気から解放されるまでには3年ほどかかったという。

子供の病気もあって経済的に苦しんでいたバルウアー夫婦は、3歳のマリオを里子に出し、イタリアのブレシア県に住んでいたバロテッリ夫妻に養子として迎え入れられた。バロテッリは養子に出してから消え、有名になると突然再び現れた本当の両親を強く憎んでいると何度も発言している。

バロテッリはイタリア人家族の養子になった後も、イタリアの国籍はすぐ取ることができなかった(イタリア国籍を取得したのは18歳の時になる)。イタリアサッカー協会からの特別な許可を受けて、15歳の時にセリエCのルメッツァーネでデビューし、セリエCの歴史の中の最も若い選手となった。

しかし彼はU-16イタリア代表で大活躍できるポテンシャルがあったものの、イタリア国籍を持っていなかったために国際大会には参加することができなかった。彼にとって、自分より活躍していない選手が代表に次々に選ばれていたことは、とても悔しいことだっただろう…。

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彼の怒りはイタリアサポーターの人種差別から生まれた

両親の裏切り、そして好きなサッカーをもっと高いレベルで出来ないという悔しさは、彼に簡単に治せない傷を残した。精神的に脆くなったバロテッリは18歳になり、ようやくイタリア国籍を取ることができた。ところがその後に彼を待っていたのは、サポーターによる人種差別の繰り返しだった。

バロテッリは、キングコングのように描かれたり、ピッチにバナナの皮を投げられたりされたりなど、酷い人種差別をたくさん受けてきた。そして、彼が出場した試合で彼に対するブーイングを聞かなかったことはない。「Se saltelli muore Balotelli(ジャンプしたらバロテッリが死ぬ)」と目の前のサポーターがジャンプしながら歌ったら、どんな気持ちになっただろう…。ピッチに立っている時にいつもイライラしているのは不思議ではないのだ…。

彼がブーイングなどに弱いということが、相手チームの作戦に使われたこともあった。相手チームのディフェンダーはファールや暴言などでバロテッリをわざとイライラさせ、彼の起こすリアクションでイエローカードを受けたパターンはこれまでたくさんあった。

もちろんバロテッリが選手として化けなかったのは周りの人のせいだけではない。しかし、人種差別が彼のキャリアに影響与えたことには間違いない。

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バロテッリはJリーグならフィットする

バロテッリはこれまでに、イタリア(インテル、ミラン、ブレシア)、イギリス(マンチェスター・シティ、リバプール)、そしてフランス(ニース、酒井宏樹所属のオリンピック・マルセイユ)でプレーしてきた。その中で彼が一番落ち着いたプレーを見せたのはフランス。フランスはイタリアとイギリスほど、人種差別があまり問題になっていないからだと思う。彼は周りからひどい扱いをされずにプレーができれば、まだまだいい活躍見せてくれると信じています。

様々な方は私の意見に反対だろうが、私はJリーグならバロテッリが誰よりも輝けると思う。その理由は日本の素晴らしいサポーターにある。まず日本のサポーターは肌の色で選手を判断しない。そして、誰よりも選手の気持ちを考えて、その選手が活躍できる良い環境を作るためだけに気持ちを込めて応援している。

バロテッリの周りに必要なのは、彼を見捨てた家族の代わりになるような存在です。愛情を受けられれば、バロテッリは必ず良い結果で答えてくれる。

どうですかみなさん…。バロテッリの今までの活躍、そして起こした複数の問題を知ってなお、彼にチャンスを与えられますか?私はバロテッリに日本に来ていただけたら最高に嬉しいです。

名前Uccheddu Davide(ウッケッドゥ・ダビデ)
国籍:イタリア
趣味:サッカー、アニメ、ボウリング、囲碁
好きなチーム:ACミラン、北海道コンサドーレ札幌、アビスパ福岡

14年前に来日したイタリア人です。フットボール・トライブ設立メンバーの1人。6歳の時に初めてミランの練習に連れて行ってもらい、マルディーニ、バレージ、コスタクルタに会ってからミランのサポーターに。アビスパ福岡でファビオ・ペッキア監督の通訳も務めた経験があります。

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