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セレッソ復帰の乾貴士。スペイン時代の変貌に至るまでを紐解く!

エイバル時代の乾貴士 写真提供:Gettyimages

鬼門スペインで体得した「守備のイロハ」

「スペインでプレーすることが夢」だった乾だが、加入したSDエイバルはバスク州ギプスコア県にある人口僅か27000人の小さな町にある「知らない」チームだった。前年に1部初昇格したエイバルは2年目を戦う中、当時のクラブ史上最高額の移籍金で乾を獲得した。ただ、その金額は30万ユーロ(当時のレートで約4000万円)だったことからも、どのような規模のチームかは推測がつくだろう。

スペインとドイツでプレーした乾だからこそ分かる肌感覚がある。「日本人は技術が高いからテクニカルなスペインで活きる」のではなく「大柄な選手が多いドイツでこそ、小回りが利いて気が利いてテクニックのある日本人が成功しやすい」逆に「スペイン人はみんな技術が高いから試合に出るのが難しい」と。

歴代の日本人選手が総じて活躍できずに終わった「鬼門」スペインでの挑戦は、日本屈指のテクニシャンである乾を変えた。日本とドイツのトップリーグでのキャリアハイがフランクフルト初年度の6ゴールであることもあり、得点を量産できていないことも考慮しただろう。ドイツでも守備の比重が低かった乾は、ホセ・ルイス・メンディリバル監督が指揮するエイバルで初めて「守備のイロハ」を学んだ。

エイバルは守備時にチーム全体が[4-4-2]でコンパクトな3ラインをセットし、最前線から相手ボールを奪いに行くプレッシングサッカーを徹底するチームだった。乾は(主に左)サイドハーフを任され、前からボールを追い、逆サイドからの攻撃に対して埋めるべきスペースに戻ってカバーした。特に相手のパスコースを切りながらタッチラインに追い込み、相手の体に自分の体を当て、相手とボールの間に足や体を入れてボールを奪い取る守備を体得してからはレギュラーを勝ち取った。エイバルでの乾は「守備の人」とも言えるほどだった。

メンディリバル監督は強面だが、実際は「ボールを持ったら俺の指示など無視して自分のサッカーをプレーしろ」と言うような選手の自主性を重んじる指揮官だったのも良かった。1対1の局面で相手との間合いに自分の体を入れることが得意になった乾は、それを攻撃でも活かすと明らかにボールを失う回数が減り、キープ力も格段に上がった。169cmの乾が日本人選手の弱点と言われるフィジカル面でも負けない証明だった。

エイバルで3シーズンプレーした乾は直後のロシアW杯で大活躍。2018/19シーズンにはレアル・ベティスとデポルティーボ・アラベスでもプレーし、2019年夏にエイバルに復帰。最後はチームの2部降格と契約満了により退団したが、6年間プレーしたスペイン1部で165試合出場の勲章を手にし、「鬼門」で成功した初めての日本人選手となった。


乾貴士(現セレッソ大阪)写真提供:Gettyimages

「謎の練習生」が10年ぶりのC大阪復帰

毎年欧州のシーズンが休みに入る7月頃、C大阪の練習試合では得点を量産する「謎の練習生」が現れる。所属選手ではないためにクラブリリースの得点欄には「練習生」と表記されるが、練習試合の写真を見ると明らかに乾と香川の2人である。それほど彼等はC大阪と密接な関係を続けて来た。

2021年8月31日、背番号をもらった「謎の練習生」は、以前在籍時につけていた「7」ではなく「23」を選び、「23歳の時にセレッソから海外に挑戦させてもらい、ここから改めてスタートしたいという強い思いを込めて。そして、大好きな山下達也選手(現柏レイソル)が付けていた番号でもあるので、皆様にも新しい乾貴士を迎え入れていただけたらと思います」と背番号を選んだ理由の中にも強い決意と共にセレッソ愛を述べた。

スペインの地でセクシーフットボーラーからモダンプレーヤーへと変貌を遂げた乾の存在は、2019年から2年間指揮を執ったスペインの名将ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督(現清水エスパルス)の戦術が浸透している現在のC大阪に、そして若手選手たちに良い影響を与えるだろう。

乾は9月5日のJリーグYBCルヴァンカップ準々決勝、ガンバ大阪との第2戦で後半21分から途中出場で再デビュー。隔離期間も特に設けていなかったのは今年も「謎の練習生」として早々とチームには合流していたのだろう。試合では超ロングシュートを放ち、自陣からの長い距離を持ち運ぶドリブル突破などで魅せ、チームも4-0と快勝。第1戦の敗戦から逆転で準決勝進出を勝ち取った。

とにかく明るい乾貴士の笑顔溢れるプレーはロナウジーニョにも負けていない!

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