女子サッカー

東京五輪なでしこ、起死回生ゴールでドローの初戦分析。エース岩渕を助けられるのは田中美南だ!

日本代表FW田中美南(2012FIFA U-20女子W杯)写真提供:Gettyimages

岩渕の負担を消せるのは、変貌を遂げた田中美南だけだ!

このカナダとの戦術の差にして、それでも試合を1-1のドローで終えらるほど、岩渕の存在は大きい。そして同試合終盤になって岩渕が攻撃面で仕掛ける場面が出てきたのは、後半から投入されたFW田中美南の存在が大きかった。田中は出場早々に鋭い動き出しでPKも獲得した。

田中は日本国内の女子サッカートップリーグ「なでしこリーグ1部」において、2016年から4年連続で得点女王を獲得。2018年と2019年にはMVPにも輝いている。しかし、2年前に開催された「FIFA女子W杯フランス大会」のメンバー23人からは外れていた。理由は明白で、得点以外の部分での貢献度が低かったからだ。

しかし、現在の田中は違う。5連覇中だった絶対女王である日テレ・東京ヴェルディ・ベレーザから、2020年に当時の岩渕が所属していたINAC神戸レオネッサへ移籍。代表定着のために、代表のエースである岩渕との連携を高め、ホットラインを確立したのだ。

岩渕が2020年限りでINAC神戸からイングランドのアストン・ビラへ移籍すると、田中も日本初の女子プロリーグ「WEリーグ」創設までのシーズン移行期間を活かし、今年2月からドイツのレバークーゼンへとレンタル移籍。その効果は東京五輪直前の豪州との強化試合でもはっきりと出ていた。

9月に開幕予定のWEリーグへの移行期によって、所属クラブでの実戦を半年以上経験していない国内組とは比較できないほどコンディションが良い田中。体格の大きな選手と競り合っても164cmの小さな体はブレず、敏捷性の優れた短いスプリントで球際の競り合いを制した。前線や中盤、サイドと数的不利な局面でも体を張ってボールをキープ。最前線では相手DFラインとつば競り合いの駆け引きをして、2列目にスペースと時間を提供する汚れ役までこなせる万能型FWに変貌を遂げた。

カナダ戦では自ら獲得したPKで、負傷した相手GKの熱演に屈したが、岩渕頼りな攻撃に終始するなでしこジャパンにおいて、エースを助けられるのは田中だけである。


イングランド代表FWエレン・ホワイト 写真提供:Gettyimages

チリに完勝の強豪イギリスを相手にどうする?

7月24日のグループステージ第2節で対戦するイギリス代表は、22名中の19名をFIFAランキング6位のイングランドの選手が占める。“ほぼ”イングランド代表となり、なでしこが初戦を戦ったカナダよりもワンランク上の強豪である。

イギリスは大会初戦のチリ戦で、FWニキータ・パリスやMFジル・スコットのような主力を先発から外し、メンバーも試合のテンポも落としながらも、2019年W杯得点女王FWエレン・ホワイトの2得点で2-0と完勝。昨年のFIFA年間最優秀選手である右SBのルーシー・ブロンズは、相変わらずサイドバックながらフィニッシュに絡み、1アシストを含めて同2得点に絡んだ。役者はハイパフォーマンスを見せながら日本戦を睨んでいる。

ブロンズと対面する日本の左サイドは、カナダ相手には手も足も出せなかった。左SB北村菜々美と、左CB南の連携が悪く、サポートに入るべき左サイドMF長谷川はその位置にはいなかった。もっとも、長谷川がDFライン近くで守っていても全くチームの利益にはならず、それは長谷川ではなく“長谷”という違う名前の選手になっているかのようだった。それをエース岩渕が補完して事なきを得たのだが、果たしてイギリス相手にも日本はエースをチーム戦術の中で埋没させてしまうのか?

それも策の1つだが、消耗した岩渕の初戦後の表情を見るからには、あまりにももったいないような気がする。岩渕が中盤で攻守のバランスを整備するなら、せめて前線で相手と戦ってくれる田中の存在はやはり必要不可欠である。

五輪初戦は、絶対女王である強豪アメリカがスウェーデンに0-3の大敗を喫するなど、不安定な出だしを見せた国はある。しかも今大会はグループステージ参加全12カ国中の8カ国が決勝トーナメントに進出できるレギュレーションである。しかし日本がメダル獲得を目指すのならば、毎試合勝つところから準備を始めてもらいたいものだ!

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