ワールドカップ

素晴らしい開催国となったロシア、W杯の遺産への期待と不安

著者:マリオ・カワタ

 ワールドカップや欧州選手権といったビッグイベントは、1ヶ月の間に渡って開催国に祭典の雰囲気をもたらす特別な力を持っている。各国のユニフォームや国旗を身にまとった人々が試合のない日もバーや広場で交流し、街中にはサポーターの歌声があふれる。スタジアム周辺はもちろん駅前やパブリックビューイング会場も活気にあふれ、初夏の好天とともに開放的な空気につつまれる様子は、まさにお祭りそのものだ。

 大会前には開催国としての能力に懸念の声が上がっていたロシアも、その例外とはならなかった。ドイツ『ドイチェ・ベレ』は、文化的な背景から市民があまり笑顔を見せないモスクワにも笑顔があふれ、普段は静かな地下鉄がにぎやかになっても誰も文句を言わないと、大会中の街中の様子の変化を伝えている。LGBTを象徴するレインボーフラッグを掲げることは通常であれば違法だが、大会中は特例として罰せられないことになっている。

 またロシアは特に数年前の反政府デモ以降、公共の場での抗議活動などに対する圧力を高めているが、W杯中は広場などの監視も緩和されフラッグやサインを手に人々が集まる姿が見られるという。西欧では当然の光景だが、警察の目が光るロシアではそれだけでも普段の生活との違いがあるようだ。手綱を緩めるよう指示を受けていると思われる警察官も、よりフレンドリーに市民やファンに接しているという。

 今回のW杯のためにロシアは多額の投資を行い、スリリングな試合が続いたおかげもあって成功を収めた大会により国のイメージをある程度改善することに成功した。マスメディアによる報道だけでなく、ファンが現地の様子を捉えた写真や映像はソーシャルメディアに拡散している。以前からモスクワやサンクトペテルブルクは観光地としての人気が高まっており、さらに観光を促進したい政府は今大会が長期的な外国人の呼び込みにおいても、ポジティブな影響をもたらすことを確信しているはずだ。

 こうした雰囲気の変化の恩恵を受けたのは、国外からの訪問者だけではない。

「みんなが街に出て楽しもうとしています。モスクワの中心に行く地下鉄が速くなったようにさえ感じますね」と、取材を受けた現地の女性は答えている。「ファンも含めて、W杯後も同じようであってほしいです。彼らはとてもポジティブなので」

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