代表チーム ドイツ代表

大統領面会問題が浮き彫りにした、トルコ系ドイツ代表選手の微妙な立場

ラインハルト・グリンデル会長(中央)と会談したエジル(左から2番目)とギュンドアン(右から2番目) 写真提供:Getty Images

 さらに2人は会長を含むDFBの幹部とも面会し、改めて政治的なメッセージを送る意図がなかったことを説明。これらの対応によって、騒動は数日のうちに沈静化した。

 ドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督は今回の騒動に対して、移民のバックグラウンドを持つ人々が「2つのハートを持っている」として、一定の理解を示す立場を取った。また代表チームディレクターのオリバー・ビアホフも「メストとイルカイはこれからもインテグレーションの好例であり続けるし、それはドイツ代表を選択したからだけではない」と語っている。実際、エジルは2010年には権威ある『バンビ・メディア賞』のインテグレーション部門を受賞している。

 フランス代表などと同様に、ここ最近のドイツ代表チームは国内の移民統合や多様性の象徴としての側面を持っている。キャプテンのジェローム・ボアテングはガーナ系、サミ・ケディラはチュニジア系のドイツ人であり、エジルやギュンドアンはトルコ系ドイツ人を代表する存在だ。

 第二次世界大戦後にトルコから多くの労働者を受け入れたドイツでは、大都市を中心に約300万人ともいわれるトルコ系の住民を抱えている。特にドイツで生まれ育った第二世代以降の多くはドイツ語も不自由なく、両方の国籍を持つ人々も多い。一般人であれば「トルコ人であり、ドイツ人でもある」という二重のアイデンティティを持つことができるが、ひとつの代表チームを選択しなければいけないサッカー選手の場合、状況はより複雑だ。

 実はエジルとギュンドアンがエルドアン大統領と面会した際には、エバートンのトルコ代表ジェンク・トスンも同席していた。トスンは2人と同じくドイツ生まれだが、トルコ代表を選択している。3人とも持っている国籍は同じながら、当然トルコのためにプレーするトスンが大統領と面会して批判を受けることはなかった。今回の騒動は代表チームの選択が選手に求められる言動や価値観さえ左右するということ、そして長年代表チームに貢献し模範的な移民系ドイツ人とされる選手でさえ、その立場は今も非常に複雑かつ微妙なものだということを、改めて認識させることになった。

著者:マリオ・カワタ

ドイツ在住のフットボールトライブライター。Twitter:@Mario_GCC

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