Jリーグ ヴィッセル神戸

楽天の世界戦略が実現した、ヴィッセル神戸イニエスタ獲得の意味

著者:マリオ・カワタ

ドイツで注目を浴びるヴィッセル神戸

 ドイツで唯一、ほぼ全試合が生中継されているJリーグのチームがある。それがどのチームか推測するのは、難しい事ではないだろう。元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキが所属するヴィッセル神戸だ。

 日本国内と同様に、ドイツでのJリーグの放映権も昨年から英国パフォーム・グループのDAZNが取得している。残念ながら現在中継されるのは毎節J1の一試合だけで、実質的には神戸の試合のみだ。第14節からは他チームの試合がピックアップされるようになったが、これはポドルスキが負傷離脱中のためと思われ、ワールドカップ後は再び「ヴィッセル神戸チャンネル」になるだろう。これは日本のテレビ局が海外でプレーする日本人選手の試合を放送するのと同じことであり、ある意味当然と言える。

 ドイツでヴィッセルの名前を目にするのは、DAZNだけに留まらない。専門誌『キッカー』から一般紙のスポーツコーナーまで、サッカーのニュースを扱うウェブサイトを覗くと「ポドルスキの神戸が勝利」といった具合に、毎週試合結果がニュースとして掲載されている。日本のクラブが欧州のメディアでこれほど継続的に注目を集めたことは、今までなかっただろう。

過去の大物外国人選手を超えるイニエスタの獲得

 そのヴィッセル神戸が遂に、バルセロナを退団したスペイン代表MFアンドレス・イニエスタの獲得を発表した。Jリーグ創世期を中心にこれまでも世界的な知名度を誇るスター選手が日本でプレーしてきたが、イニエスタの移籍は主に2つの意味で過去の例を上回るインパクトを持つ。

 ひとつは、イニエスタの実績とそれに従うネームバリューだ。たしかにポドルスキやフォルランは世界中のサッカーファンに知られた存在であり、ストイチコフは1994年ワールドカップの後にバロンドールを獲得している。ドゥンガやレオナルドは現役のセレソンだったし、リネカーやラウドルップはそれぞれ母国の英雄だ。しかしサッカー史上に残した功績の大きさでイニエスタに匹敵するのは、日本でプレーした選手ではジーコだけでないだろうか。そのジーコも来日時は既に40歳近く、一度現役を退いた後だった。

 過去10年間以上に渡ってイニエスタは間違いなく世界最高の選手の一人であり、メッシとロナウドがいなければバロンドールを獲得していただろう。バルセロナという世界最大級のクラブの象徴的な選手として数々の栄光を手にし、スペイン代表でもワールドカップを含むビッグタイトルを勝ち取っている。そして34歳になった現在まで、両チームで重要な役割を果たしてきた。Jリーグ史上最大のビッグネームと言っても、過言ではないだろう。

 さらに獲得に掛かったとされる費用も、過去の大物外国人選手とは桁違いだった。ポドルスキの800万ユーロ弱(約10億円)とされる給与も既に日本では例を見ない高給だったが、イニエスタは年俸2500万ユーロ(約32億円)を受け取るとされている。これは欧州以外では中国や中東のクラブしか払えないと思われていた規模の金額であり、日本のクラブがこうした大金をつぎ込んで世界的なスターを獲得するのは不可能である、という既存の価値観を完全に覆した。

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