韓国代表 ワールドカップ

監督への殺害予告が示す韓国サッカー界の混迷、復活への3つのプラン

ホン・ミョンボ監督 写真:アフロスポーツ

FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会で1次リーグ敗退という屈辱的な結果に終わった韓国代表。仁川国際空港での帰国時には、ファンからの怒号と警察の厳戒態勢が異様な緊張を生み、洪明甫(ホン・ミョンボ)監督に対する殺害予告まで飛び交う異常事態となった。

ホン監督本人は辞任を表明したが、これで事態は収まる気配はない。李在明(イ・ジェミョン)大統領自らがSNSで協会の人事問題を「身内意識」と批判(後に一部トーンを調整)し、政府はKFA(大韓サッカー協会)への特別監査を表明した。しかし、これがFIFAの自主運営規定に抵触するリスクを孕み、さらなる混迷を招いている。

韓国サッカー界は今、「堕ちるところまで堕ちた」状態だ。長年の協会運営の不透明さ、代表監督選出のプロセスにおける学閥・派閥人事、育成システムの停滞などが積み重なり、国民の信頼を失墜させている。4強に進出し、国民を熱狂させた2002年日韓W杯の黄金時代からおよそ四半世紀が経ち、近年は元ドイツ代表FWユルゲン・クリンスマン氏(2023年3月~2024年2月)のような外国人のビッグネームを監督に招聘しても成果が出ず、2014年ブラジル大会に続くホン監督の2度目の失敗で限界が露呈した。

また、近年はエースFWソン・フンミン(ロサンゼルスFC)の“ワンマンチーム”を作り上げたことで何とか国際競争力を維持してきたが、ソンも7月8日で34歳となりキャリアの終盤を迎えている。かと言って後継者が育っているわけでもなく、復活の道は遠いと言わざるを得ない。

ここでは、ソンのような絶対的エースに頼らない韓国サッカー復活のための現実的なプランを提案してみたい。この3点は短期的な人気取りではなく、中長期的な基盤強化を重視したものだ。


ソン・フンミン 写真:アフロスポーツ

実力がプライドに追い付いていない韓国サッカー界

韓国のファンは、「我が国がアジアのサッカーをリードしている」という自負がある。W杯初出場は1954年スイス大会で、これがアジア初のW杯出場だった(アジア予選には韓国、日本、中華民国がエントリー、その後、中華民国が辞退したため日韓2か国で争われ、韓国の1勝1引き分けで出場権を獲得)。

しかし、世界の壁にはね返され続け、初勝利を挙げたのは自国開催となった2002年日韓大会初戦のポーランド戦(2-0)で、実に15戦を要した。アジア勢初勝利とグループリーグ突破は、1966年イングランド大会に出場した北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に先を越された。

それでも、アジアでは断トツの11大会連続12回もの本大会出場を誇る韓国。決勝トーナメント進出は3回に留まるが、前回のカタール大会同様、グループリーグ突破を期待されていただけに、国民が落胆する思いも理解は出来る。日本代表も2006年ドイツ大会、2014年ブラジル大会前は「史上最強」という触れ込みだったが、結果は1勝も出来ずに大会を去った。帰国した監督への罵声や殺害予告という行き過ぎた反応も、この「実力とプライドのギャップ」がもたらした歪みの一つといえるだろう。


パク・チソン氏 写真:アフロスポーツ

プラン1:協会ガバナンスの完全透明化と第三者委員会の常設

最大の問題は、監督選任や運営のブラックボックス化だろう。ホン監督の就任時も、正式審査プロセスが不十分だったとの疑惑が国会で追及され、警察捜査にまで発展した。高麗大学出身者を中心として学閥が影響力を発揮し、能力より身内意識が優先される体質がその根底にある。

復活策の核心は、協会の意思決定プロセスを公開し、透明化することだ。具体的には監督選任委員会(日本でいうところの強化委員会)を外部専門家(スポーツ法学者、データアナリスト、元代表選手、海外リーグ関係者など)を含む形で常設。候補者の評価基準(戦術、育成実績、コミュニケーション力など)を明確化し、会議議事録は国民に公開する。

また、会長・理事選出にも同様の透明化されたルールを適用し、財閥や政治家の影響を排除するための利益相反防止規定を強化する。FIFA推奨のモデルを参考にした独立監査機関を導入し、予算・人事・契約内容などを定期的に検証する。

これにより、FIFAの第14条に示された「第三者干渉禁止」にも抵触せず、政府監査を「一般法執行」として位置付けられる。元韓国代表FWで、京都パープルサンガでの活躍から世界に羽ばたいたパク・チソン氏(現FIFA男子サッカー利害関係者委員会委員、全北現代顧問)が指摘するように、こうした改革こそが「同じ失敗の繰り返し」を断ち切る第一歩となる。

欧州の成功例とされるドイツサッカー連盟の専門委員会モデル(地域スポーツクラブと学校を連携させる育成システムや指導者の派遣、有望選手の発掘など)を参考に、協会の信頼回復を目指す。導入コストは公的資金ではなく、スポンサーシップ拡大で賄う形が現実的だ。

この改革が成功すれば、次期監督探しも可能になるだろう。外国人の名将も「政治的に安定した環境」を条件にオファーを検討しやすくなるからだ。


韓国U-23代表 写真:アフロスポーツ

プラン2:ユース育成の抜本的な改革と育成システムの構築

韓国サッカーの衰退はトップダウンだけでなく、底辺の弱体化もその一因だ。U-23代表がパリ五輪出場を逃すなど、年代別代表の育成失敗が象徴的だ。才能ある若手選手が欧州移籍しても、代表へのフィードバックが不十分で、チーム力向上に結びついていない。

プランとしては以下のシステム改革が考えられる。

  • 全国規模のユースアカデミー網を再編:Kリーグのクラブに義務付けられた育成投資を促し、データ分析を活用した科学的選抜プログラムを導入。地域格差を解消するため、地方拠点にプロのコーチを派遣する。
  • 計画的な若手選手の育成システムの構築:有望な10代選手を、育成に長けた欧州中堅クラブに積極的にレンタル移籍させ、海外経験を積ませる。JリーグなどのアジアのリーグやMLS(メジャーリーグサッカー)との提携を強化し、多様なスタイルに適応させる。
  • 代表チームの「継続育成枠」設定:A代表監督がU-23以下の選手と定期的に合同キャンプを実施し、戦術を共有。メンタルコーチや栄養専門家も常駐させ、選手の人間的成長も支援する。

これらの改革は2002年日韓大会から続く「スター選手頼み」からの脱却を目指し、層の厚い集団を作り上げるためのものだ。投資はKリーグの商業化(放映権やスポンサー収入)と連動させ、協会の単独負担を和らげることも重要だ。10年後には、欧州5大リーグで活躍する韓国人選手を現在の2倍程度に増やす目標を設定すべきだ。これにより「一過性のブーム」ではなく、持続的な競争力を築ける。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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