
経営のプロが率いる新世代クラブ
鹿島アントラーズ
鹿島アントラーズを率いるのは、メルカリの取締役社長兼COOを務める小泉文明氏だ。2019年、日本製鉄とその子会社が持つクラブ運営会社の発行済み株式61.6%をメルカリに譲渡。大和証券SMBCでの投資銀行業務、ミクシィ・メルカリでの経営経験を活かしたクラブ運営を主導し、2025シーズンには9年ぶり・クラブ通算9度目となるJ1リーグ優勝を果たした。同年7月からはスタジアムのネーミングライツも取得し「メルカリスタジアム」として運営。「試合がなくとも稼働するスタジアム」を目指す姿勢は旧来型Jクラブとは一線を画す。クラブ独自のプロパー社員採用にも積極的で、親会社出向型とは異なる人材登用を進めている最中だ。
ファジアーノ岡山
ファジアーノ岡山の木村正明オーナーは、ゴールドマン・サックス証券の元執行役員で、2006年、地元の友人に請われる形で代表取締役に就任。当時の年間予算は約400万円だったという。木村社長就任から3年でJリーグ加盟を果たすとともに収支も初めて黒字化させ、クラブの成長を牽引した。企業依存型ではなく外部の経営知見を直接取り入れた市民クラブの理想的モデルとして注目される。

多様化するJ1の経営モデル
FC東京
FC東京は2022年にミクシィが経営権を取得し、同社出身の川岸滋也氏が代表取締役社長を務めている。デジタルマーケティングや事業収益強化を進め、2024年度には過去最高となる約70億円の営業売上を達成した。東京ガスなど複数企業も出資し、取締役に各社出身者が名を連ねる分散型体制を取っている。
清水エスパルス
「市民クラブ」として唯一、Jリーグ創設メンバーに選出された清水エスパルスは、1997年に運営会社が経営破綻するという過去を持つ。その後、地元の物流大手・鈴与グループが経営を支える構造の中で、現在の代表取締役社長・山室晋也氏が経営の舵を取る。山室氏は第一勧業銀行(現みずほ銀行)出身で、プロ野球・千葉ロッテマリーンズで6年間顧問を務め、毎年25億円の営業損失を黒字化させた実績を買われて清水の社長に招聘された、いわば「プロの経営者」だ。現場の強化は反町康治GM(ゼネラルマネージャー)兼サッカー事業本部長に委任し、二人三脚の経営を実現している。
水戸ホーリーホック
親会社を持たない市民クラブの水戸ホーリーホックは、地元出身の小島耕社長がサッカー専門新聞『EL GOLAZO(エル・ゴラッソ)』の元編集者という異色のキャリアを持つ。J2在籍26シーズンを経て2026シーズンに悲願のJ1昇格を果たし、現在は百年構想リーグで健闘している。一方、本拠地のケーズデンキスタジアム水戸がJ1仕様基準を満たせず、那珂市の水戸信用金庫スタジアムへの移転を余儀なくされるなど、フロントが「J1レベル」に追いつくにはまだ時間が必要なようだ。
セレッソ大阪
ヤンマーの色が濃いセレッソ大阪だが、2025年4月から就任した日置貴之氏は、博報堂、FIFAマーケティングを経て「スポーツブランディングジャパン」を設立。H.C.栃木日光アイスバックス(アイスホッケー)の代表や、2020年東京五輪・パラリンピック開会式・閉会式のエグゼクティブプロデューサーを務めた実績を持つ。OBの元FW・森島寛晃氏が代表取締役会長としてクラブの顔を務める新体制となり、パナソニック・ヤンマーとも無縁の「外様」経営者の登板は、セレッソの新時代を感じさせる。
アビスパ福岡・その他
アビスパ福岡ではコンプライアンス違反が発覚した金明輝前監督の任命責任を取る形で、筆頭株主のシステムソフト社出身で元Jリーガーの結城耕造氏が辞任。後任として西野努氏が外部招聘の形で新社長に就任したイレギュラーなケースだ。ジェフユナイテッド千葉、川崎フロンターレ、東京ヴェルディ、町田ゼルビア、京都サンガ、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島でも、親会社や地元企業・自治体とのつながりが役員構成に影響を与えているケースが多い。特にV・ファーレン長崎は地元企業のジャパネットホールディングスとの連携を強固な基盤としている。

Jリーグ全体の潮流と展望
J1全20クラブのうち、親会社や関連団体からの出身者が経営陣に一定数在籍する状況は残る。しかしIT企業オーナーや外部専門人材の登用事例も徐々に増加傾向にある。Jリーグのクラブライセンス制度では人事体制・組織運営基準が定められており、専門性の向上が求められている。
親会社支援は赤字補填や施設整備の面で有効に機能するが、クラブの自立経営と多様な資金源確保が今後の鍵となる。親会社依存度の高いクラブは資本関係が明確で安定しやすい一方、独立色の強いクラブはスポンサー多角化や観客動員による収入向上が重要になる。
Jリーグ発足当初の企業スポーツ色は薄れつつあるものの、完全な脱却にはまだ時間を要する。経営陣の人事は各クラブの責任事項であり一律に評価される類のものではないが、将来的にはスポーツビジネスに特化した専門人材の活躍がリーグ全体の競争力強化につながると期待したい。
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