アジア

松井大輔が所属したサイゴンFC「日本化」失敗で消滅危機の背景

アスルクラロ沼津 サポーター 写真:Getty Images

「日本化」の犠牲者となった選手たち

そこからがまた怒涛の展開だった。サイゴンFCは最終節を終えた当日、スタジアム内の事務所で所属する全ての選手・コーチの契約を解除。この時点でクラブが2部リーグを戦う意思がないことは明白だった。気の毒だったのは「日本化」の犠牲者となった選手たちだ。特に、提携先であるFC琉球とアスルクラロ沼津に期限付きで移籍していた若手選手らは、母国に戻った途端、無所属になるという悲惨な状況に立たされた。

思い返せば、ビン前会長が2021シーズンのキックオフカンファレンスで語った夢物語は、その殆どが実現しなかった。FC東京との提携で進めるはずだったアカデミー・スクール事業はコロナ禍の影響もあって頓挫。現場レベルでは日本から招いた選手と指導者が結果を残せず、もともと評価が高いとは言えなかったVリーグでの日本人助っ人の評価を更に下げてしまった。ベトナム人選手の日本派遣は、有言実行した数少ない事例の一つだが、それもクラブが解散してしまっては何の意味もない。


2019年 ハノイFC 写真:Getty Images

避けられないクラブ消滅危機

もともとサイゴンFCというクラブは、ハノイFCのセカンドチームがホーチミン市(旧サイゴン市)に移転して設立されたという歴史的背景があり、地元での人気はすこぶる低かった。ホーチミン出身のビン前会長が就任した際は、地元色を前面に打ち出していく方針で、会長の発言に希望を持った人々もいたが、地域に根付く前にクラブは瓦解。また、チーム内では「日本化」に対する不協和音が生じ、スローガンだった「We are one」とは程遠い状況だった。

その後、事実上の解散となったサイゴンFCは、2部出場権をラムドン省(3部ラムドンFC)に売却する計画を打ち出した。しかし、この計画はサイゴンFCの複数株主が反対したことで実現には至らず、サイゴンFCは3月初め、正式に2部リーグ不参加を表明。この瞬間、リーグ規定によるペナルティでアマチュアの4部まで降格することが決まった。もともと市外のクラブであるため、自治体の支援も受けられず、新スポンサー獲得の目処も経っていない状況で、クラブの消滅は避けられないと見られている。

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名前USAMI JUN
趣味:サッカー観戦、映画鑑賞
好きなチーム:ソンラム・ゲアン、名古屋グランパス、アーセナル

1981年生まれ、愛知県出身、ベトナム・ホーチミン在住の翻訳家兼ライター。2005年に日本語教師としてベトナムに渡り、語学センターや大学で教壇に立った後、2011年にベトナム情報配信サイトの運営会社に就職して編集長を務める。2013年にベトナムサッカー専門サイト「ベトナムフットボールダイジェスト」を立ち上げ。日本のサッカー媒体向けにベトナムサッカー関連記事を細々と寄稿中。

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