ラ・リーガ バルセロナ

ロンドンの夜に輝いたイニエスタのフットボールマインド

著者:Seb Stafford-Bloor(翻訳者:土屋一平)

 チェルシーvsバルセロナは期待されていたほどの試合にはならなかった。確かにドラマチックで緊迫した試合だったが、「まやかしの戦争」に過ぎなかった。両チームが守備的に試合を展開するのはノックアウトステージにおいてほとんど避けられない問題だ。1 stレグでは負けなれけばよく、勝つ必要はないのだから。

 輝かしい場面もあった。ウィリアンの素晴らしいゴールはそのハイライトであり、シッド・エンドと呼ばれるスタンフォード・ブリッジの南側のゴールポストに巧みなシュートが襲いかかった。

 しかしその中でも、アンドレス・イニエスタのパスは格別だった。チェルシーディフェンスは非難されるべき致命的なミスを犯し、リオネル・メッシは精度の高いフィニッシュを見せたが、ゴールを演出したイニエスタのビジョンはフットボールの殿堂入りされるべきものだった。

 彼はもうすぐ34歳になり、プロキャリアはもうとっくに折り返し地点を過ぎている。イニエスタは素晴らしい選手であり、間違いなくバロンドールを受賞しなかった最も優れた選手のひとりだろう。しかし彼の脚はもはや以前とは違うものであり、相手を滑るようにかわしてスペースに流れ込む動きはぎこちなくなった。アンドレ・ゴメスと交代してスタンフォード・ブリッジのピッチを去る時、彼は年齢そのものの人物のように見えた。妻が朝ベッドからゆすり起こさなければいけないような中年の男に。

 しかしいくつかの能力は恒久的に失われず、彼のビジョンは色あせていなかった。

 奇妙なことに、イニエスタは彼がプレーする時代に適した選手では全くない。現代フットボールはシーソーのように切り替えのペースが早く、リズミカルなルーレットのように攻守が入れ替わる。それとは対照的に彼は伝統的な方法でプレーし、彼の鼓動は滑らかなボールタッチと鋭いパスによって感じることができる。一種の矛盾ともみられるが、彼の能力はスポーツの歴史においてどこかで存在していたものなのかもしれない。しかしそれは奇妙に時代遅れだと言えよう。美学は以前にもまして重要な問題になっているが、それにもかかわらずイニエスタには魅力がない。

 しかし火曜日の夜は…

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