Jリーグ 清水エスパルス

Jで“最も有名なダービー”復活の一年は磐田の完勝に。名波監督と中村俊輔が王国復活の夢を背負う

 そして第29節、再びIAIスタジアムにおける印象的な3-0試合で磐田の”トレブル”が完成する。同試合は、清水にとって今シーズン最多の観客(18,556人)の前で行われた。当然ながら清水側は、磐田CB高橋祥平による疑わしい行為には苦言を呈することができる。前半終了直前の競り合いで高橋が顔に当たったように装ったことから、清水DF松原后がレッドカードで退場となるにつながった。サポーターの中には90年代のドゥンガ(当時ブラジル代表キャプテン)率いる”悪のジュビロ”を思い起こした者もいるだろう。南アメリカの反則すれすれの巧妙なプレーは日本で議論を引き起こし、倫理やフェアプレーの境界に逆らうスタイルには多くが難色を示した。

 にもかかわらず、磐田の哲学が美しいサッカーをすることにはならなかった。名波浩監督は、ドゥンガ時代には選手として活躍しており、実践的なアプローチで監督としての成功を収めている。彼は守備を強化し(磐田は現在26失点で横浜Fマリノスと並んでJ1最高)、ボールを持たずにプレーする方法をチームに教え、カウンターアタックとセットプレーを武器に変えた。

 磐田には、ほとんどのポジションに重要な選手、今シーズンのベストイレブンとして可能性のある候補者がいる。1番奥にGKカミンスキー、バックラインを導くDF大井健太郎、守備的なMF川辺駿、攻撃的なMF中村俊輔。平均ボール支配率はリーグでも最も低いチームの1つ(45%)で、ボールを持たないときにこそ試合を支配する。さらには、チームを指揮する天才中村のプレーが”醜いサッカー”とはとても言えない。中村のプレーをみるためだけにスタジアムに行くことにも、すでに価値がある。

 厳しい状況にあった2014年、磐田も清水も監督としてOBに望みを固めた。大榎克己監督を迎えた清水は、初めての降格に向かっていたためそれ以上悪くなりようがなかった。しかし名波監督を迎えた磐田は、正反対の状況であった。

 磐田は上昇傾向で今シーズンを過ごしてきた。トップ3にだんだんと近づきながら、2013年以来となる大陸大会への復帰も見据え、現在6位。彼らの運命は、これからの2つの”シックスポインター(勝ち点6を争う戦い)”にかかっている。第31節の横浜FM戦、第32節の柏レイソル戦である。反対に清水は下降傾向の年で、現在降格圏からわずか勝ち点2しか上回っていない。ここ最大勝ち点24のところもわずか4点の獲得で、リーグで最も不調なクラブとなっている。最下位のアルビレックス新潟でさえ、今節は勝ち点6を獲得した。

 静岡のクラブの黄金時代は、遠い過去のことともいえよう。しかし磐田の経営陣は名波監督と中村で大当たりを取り、ファンらはすでに大きな夢を見ることができている。トロフィー獲得はまだ先のことかもしれないが、少なくとも2017年、磐田が静岡の王者であることは確実なことだ。

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