バロンドールはサッカー界で最も権威のある個人賞として、毎年そのシーズンにおける世界最高の選手に贈られる。少なくとも理論上はそういう趣旨の賞だ。選手、監督、メディアによる投票が行われてきたが、その選出が必ずしも正確であったとは思えない場合もあるのではないだろうか。
現在は、世界中のジャーナリストによる投票のみによって選ばれる形式へと変更しており、2024年のバロンドールは10月28日に発表され、マンチェスター・シティ所属のスペイン代表MFロドリが初受賞を果たした。プレミアリーグやクラブワールドカップの制覇に加え、代表ではユーロ2024を制した実績が認められた。
しかし、過去にはFIFAワールドカップ(W杯)優勝の守護神や、トレブル(リーグ戦/カップ戦/UEFAチャンピオンズリーグ【CL】)を達成した選手ですら、不当に見過ごされてきた例がある。
そこで本記事では、バロンドールを一度も獲得できなかった選手たちの中からベストイレブンを選出した。ただし、アルゼンチンの英雄故ディエゴ・マラドーナ氏(1960-2020)とブラジルの英雄故ペレ氏(1940-2022)については、この賞が1995年までヨーロッパ以外の選手には授与されなかったため、受賞資格がなかった点に留意してほしい。また、セレクトした選手の中には、現在も現役の選手がいることから、今後受賞の可能性があるかもしれないことも考慮いただきたい。
ジャンルイジ・ブッフォン(イタリア)
GK(バロンドール最高順位:2006年2位)
サッカーの歴史上、バロンドールを受賞したGKはわずか1人だけだ。それは1963年にこの栄冠を手にしたソビエト社会主義共和国連邦の守護神、故レフ・ヤシン氏(1929-1990)である。そして、GKジャンルイジ・ブッフォン(2023年引退)が2人目となるべきだったかもしれない。
2006年、イタリア代表をキャプテンとしてW杯優勝に導いたDFファビオ・カンナヴァーロ(2011年引退)がバロンドールを受賞した。同氏の受賞は驚くべきことではなかったが、ブッフォンもまたその栄冠にふさわしい活躍を見せた。
そのW杯で、当時ユベントス(イタリア)の守護神だったブッフォンは大会記録となる5試合連続無失点を達成し、全試合でわずか2失点に抑えた。さらに、決勝(1-1/PK5-3)の延長戦では当時フランスのエースであったジネディーヌ・ジダン(2006年引退)の決定的なヘディングシュートを見事にセーブし、イタリアの優勝に大きく貢献していた。
カフー(ブラジル)
DF(バロンドール最高順位:2002年14位タイ)
DFカフー(2008年引退)は史上最高の右サイドバックの一人として知られている。それでも、なぜバロンドールを獲得することができなかったのか?それは、ブラジル国内で元祖怪物ロナウド(2011年引退)やその他の多数のスター選手たちの影に隠れがちだったからなのは言うまでもないだろう。
さらに、カフーのポジションと役割が影響した可能性も考えられる。右サイドバックとして、彼は驚異的なスタミナと攻守のバランスを兼ね備え、チーム全体のパフォーマンスを底上げする存在だった。そのため、FWや攻撃的MFのような目立つ評価を得るのが難しかったことも要因として挙げられるだろう。
また、全盛期は、バロンドールが個人のカリスマ性やスター性を特に重視していた時代とも重なる。FWロナウドやMFロナウジーニョ(2018年引退)といったブラジル人選手はその華やかなプレースタイルとゴールシーンで世界中の注目を集めたが、カフーのような献身的なプレースタイルは、その影に隠れてしまいがちだった。
パオロ・マルディーニ(イタリア)
DF(バロンドール最高順位:1994年と2003年の3位)
DFパオロ・マルディーニ(2009年引退)は、最も尊敬されるDFの選手の1人かもしれない。例えばイングランド代表で長らく活躍したDFジョン・テリー(2018年引退)は「いつか自分もマルディーニのように素晴らしい選手になりたい」と語っていた。同じく同代表で活躍したDFリオ・ファーディナンド(2015年引退)も「マルディーニが最高だ」と話している。
また、多くのフォワードにとって最も手ごわい相手であり、それこそが彼への最高の賛辞と言えるかもしれない。「マルディーニは私が対戦した中で最強の選手だ」と、ブラジルの伝説的な選手ロナウドは語っている。元スウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモビッチ(2023年引退)も「マルディーニはこれまで対戦した中で最も優れ、最も厳しいDFだった。彼は全てを備えていた。強く、賢く、そして卓越したマンマーカーだった」と述べている。
しかし、同時代の選手たちからこれほど称賛されながらも、マルディーニはキャリアの中でセリエA優勝7回、ヨーロッパカップ(現CL)制覇5回という輝かしい実績を残しながら、バロンドールを一度も受賞することはなかった。最も受賞に近づいたのは1994年と2003年で、いずれも3位に終わっている。
フィルジル・ファン・ダイク(オランダ)
DF(バロンドール最高順位:2019年2位)
上述のマルディーニが「私はイタリア代表でアレッサンドロ・ネスタ(2015年引退)、フランコ・バレージ(1997年引退)、カンナヴァーロのような偉大なDF達と一緒にプレーしてきたが、オランダ代表のDFフィルジル・ファン・ダイク(リバプール)と組めなかったのは不運だったと思う。ファン・ダイクはサッカー史上最高のディフェンダーになるだろう」と語ったことを、2022年に移籍市場の専門家ファブリツィオ・ロマーノ氏が伝えた。
現在33歳のファン・ダイクは、過去10年間で世界でも屈指のディフェンダーとして活躍してきた。リバプールではプレミアリーグやCLを含む数々のタイトルを獲得し、ほぼすべての主要な栄冠を手にしてきた。2019年にはアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)に次ぐバロンドール2位に輝いたが、年齢も考慮するとこの先の現役生活で彼がこの栄誉を獲得するチャンスは少ないかもしれない。
ロベルト・カルロス(ブラジル)
DF(バロンドール最高順位:2002年2位)
ブラジル代表が2002年のW杯を制覇した直後、レアル・マドリードのレジェンドであるDFロベルト・カルロス(2015年引退)がバロンドールの受賞に迫り、同郷のロナウドに次ぐ2位に輝いた。
ロナウドが同W杯の得点王となり、決勝のドイツ代表戦(2-0)で2ゴールを挙げたことを考えると、2002年にカルロスが彼を上回ってバロンドールを受賞すべきだったとは言い難い。しかし、もしロナウドの偉業がなかったとすれば、受賞にふさわしい存在であったのは間違いなかったのではないだろうか。
史上最高の左サイドバックとして攻撃的なオーバーラップ、巧みなドリブル、そして代名詞ともいえる強烈なフリーキックで知られていた。
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