Jリーグ

『Hokori(誇り)』日本サッカーの写真展覧会がドイツで開催。世界に誇れるJサポーター

今、ドイツ西部のデュースブルク・エッセン大学の一角でひとつの写真展覧会が開催されている。その名も『Hokori(誇り)』。『日本のフットボール、ファン、文化』の副題が表す通り、所狭しと並べられた写真に写るのは日本のスタジアム、そして生き生きとしたサポーターの姿だ。

先月25日のオープニングイベントには、Jリーグ開幕当初にジェフ市原(現ジェフ千葉)でプレーした元ドイツ代表のピエール・リトバルスキーさんも特別ゲストとして来場し、満席の会場を楽しませた。

なぜドイツの地で日本のサッカー文化をテーマとしたイベントが開かれるに至ったのか、そして日本のサポーター文化はドイツ人の目にどう映るのか、開催を実現させたベンヤミン・ラーベさんに話を聞いた。

デュースブルク・エッセン大学の東アジア研究所に所属するベンヤミンさんは、既に柏レイソルのゴール裏に出入りしていたドイツ人の先輩研究員との繋がりで、2016年秋に初めて日立台のゴール裏を訪れた。「みんなすごく優しくて、いろいろなことを教えてくれました。すぐに応援団に参加させてくれて一気にメンバーになり、そのままレイソルのサポーターになりました」

そして行く先々のスタジアムの光景を写真に収めていく中で、展示会の開催を思いついたという。「実は研究所の所長もサッカーのファンで、日本に行く時も2、3回くらい一緒に試合を見に行っていたんです。その時にいつも面白いところを写真に撮っていて、そういった写真を研究所で見せたかった。日本で研究している他の人も誘って、いろいろな写真を集めました」

それぞれの写真の下には、その場面についてのドイツ語の楽しい解説が添えられている。例えば「日本で応援とは最初の選手がウォームアップに現れた瞬間から、声を枯らすことを意味している。ハーフタイムまでは隣の人と話したり、スマートフォンで情報をチェックする時間もない。

どんなに酷い試合でも最後までチームを応援する。そして試合が終わると汗まみれのユニフォームを脱いで、見た目では誰がサッカーファンか分からなくなってしまう」といった具合だ。柏のサポーターだけでなく、横浜Fマリノスや浦和レッズなど写真の対象は多岐にわたる。

オープニングイベントの前はドイツ人に日本のサッカーに興味を持ってもらえるか不安だったというが、ふたを開けてみれば大盛況だった。「結構広い部屋を予約して、最初は20人以上来てくれればいいと思っていたのでびっくりしました。本当に満席でしたね。結構大きな新聞社のチームも3、4人来てくれました」

特別ゲストのリトバルスキーさんは、まだ様々な点で完全にプロフェッショナルとは言えなかった黎明期のJリーグのエピソードを、ユーモアを交えて披露。当時は通訳や審判のレベルも低く「(通訳しても意味が通じないので)日本人は私がヘディングのしすぎだと思っただろうね」と会場を笑わせた。「アドバンテージは全く取られず、オフサイドは私が審判に説明しないといけなかったよ」

現在も一年に何度も日本を訪れる大の親日家は、自ら参加者に日本のお菓子をお土産として配るほどサービス精神旺盛だった。ベンヤミンさんも自身の柏サポーターとしての体験を語ったほか、サポーター仲間に作成してもらったドイツ語字幕付きの映像を流したり、リトバルスキーさんにせがまれてチャントを披露するなど、大盛り上がりのうちにイベントは幕を閉じた。

ドイツでは長年ボルフスブルクを応援しているベンヤミンさんの目に、Jリーグのサポーターはどう映るのだろうか。

「すぐに理解できたのは、日本は大きなチームから2部のチームまでサポーターの文化がどこも違うという事です。例えば清水エスパルスは南米のスタイルだったり、ガンバ大阪はイタリア、そして柏や松本山雅は日本的な応援を作ったりしていますね。ちょっと野球っぽい応援もあったり、とても国際的な感じがします。ドイツはだいたい大きなチームは同じような応援歌を使って、声量の勝負だけという感じですね」

Jリーグでは当たり前のことだが、たしかに各クラブのサポーターが異なる国のスタイルを取り入れてきた歴史は、固有のスタイルを持つサッカー大国の基準からするとユニークに映るのだろう。海外と比較することで、日本国内の多様性に気付かされるというのは面白い。

「日本は柏も含めて、実はスタジアム内の応援の雰囲気はドイツより良いと思います。ちゃんとみんな最初から歌ったり、ずっとジャンプしたりだとか」

ただ観客全体でのサッカーへの理解度という点では、ドイツに分があるようだ。選手が不甲斐ないプレーを見せた時や審判に不満がある時、ドイツではメインスタンドも含めスタジアム全体から容赦ないブーイングや野次が飛ぶ。日本でも、時にはもっと選手にプレッシャーを掛けた方がいいのだろうか。そう尋ねるとベンヤミンさんは、松本山雅のようにいつもポジティブに応援するなどそれぞれのスタイルがあっていいと前置きしつつ、ドイツ流の考えも語ってくれた。

「選手たちも仕事としてプレーして結構なお金を貰っているわけですから、ちゃんと頑張りが見えない時はサポーターも怒っていいと思います。柏はドイツっぽくて、そういう時は結構ブーイングをしますね。もちろんみんな自分のスタイルがあった方がいいけど、もっとサッカーのこと、そして選手やクラブづくりのことまで考えてほしい。それが大事だと思います。サッカーはサポーターのためのものですから。ヨーロッパでは、サッカーはビジネスのためのものになりつつあります」

ドイツでは特にサッカーの商業化に敏感で、リーグ運営やサッカーのあり方に関してファンが抗議活動を展開することも珍しくない。飲料メーカーのレッドブルが率いるライプツィヒや、U-20中国代表のドイツ4部リーグ参戦計画に対する反発は記憶に新しいところだ。

「例えばテレビ放映のために平日の試合が増えると、サポーターはスタジアムに行きにくくなりますよね。そういう問題を今ドイツのサポーターは深刻に捉えていて、デモなどをおこなっています。あとはビデオ判定のやり方がおかしいとか、ビジネスがどんどん入ってきてお金の流れがおかしくなったりというのは、ドイツのサポーターにとって大きな問題です。サッカーの文化を守っていかないといけないし、これは日本人のサポーターにも考えてほしいことですね」

最後に柏サポーターとしての一番の思い出を訪ねると、ベンヤミンさんは一瞬沈黙してしまった。あまりに多すぎて選べないというのだ。代わりに彼が語ってくれたのは、自身を温かく迎えてくれたゴール裏への感謝の言葉だった。

「僕はもちろん外国人ですが、そういうことは全然感じたことがありません。柏のメンバーであるということは、僕たちはみんな柏の人間なんだと言ってもらったことがあります。僕のこともいろいろと助けてくれて、柏ゴール裏の250人くらいは本当に家族のようなものです。そういう雰囲気は素晴らしいですし、いい思い出がたくさんありますね」

Jリーグのスタジアムで外国人サポーターを見かけることも珍しくない昨今。先日は松本山雅の新体制発表会でのサポーターの大合唱の映像が、世界の注目を集めた。過去25年に渡ってJリーグが作り上げてきた日本独自のサポーター文化は、海外のサッカーファンにも静かに発信され続けている。これからも今まで通りドイツの友人や観光客に、柏やJリーグを紹介していきたいと語るベンヤミンさんの思いが詰まった展示会は、3月末まで続く予定だ。

著者:マリオ・カワタ(@Mario_GCC
ドイツ在住のフットボールトライブライター。