
組織の成長プロセスには、あるパラドックスが存在する。成功体験そのものが、次の段階の足かせになるというパラドックスだ。スタートアップがニッチ市場で急成長し、リーダー企業を脅かす存在になったとき、それまでのゲリラ的なスピードや特定の強みに頼った手法は通用しなくなる。
これはサッカーにおける中堅クラブの成長ストーリーにも当てはまると考える。そして今まさにこの「成長痛」を大きく受けているのが京都サンガではないだろうか。
長らくJ2クラブの印象が強かった京都は、2022シーズンを皮切りにJ1へ挑戦を続け、2025シーズンには史上最高順位となるJ1リーグ3位を実現させた。監督交代を決断した2026/27シーズンは、新たな成長軌道を描くための重要な一年になる。新体制に移行した京都の歩みを、経営組織論および変革マネジメントのフレームワークから読み解く。

ポポヴィッチ監督が迫られる究極の2択
中堅に位置する組織が勢力図を塗り替え、上位集団を脅かすプロセスには、共通の成功パターンが存在する。強固な防衛体制(守備ブロック)で自陣を固め、相手の隙を突く鋭いリアクション(カウンター)で勝ち点をもぎ取るというパターンだ。しかし組織が上位に加わり、競合からの警戒が最大に達すると、状況は変わる。競合はあえて主導権を譲り、ボールを持たせるという現実的な戦略を選ぶのだ。
非保持を前提に設計された組織にとって、この「持たされる状況」は致命的な機能不全を招く。オープンスペースを疾走することで破壊力を発揮していたアタッカー陣は、相手が引いて作る極端に狭いスペースでの窮屈なプレーを強いられる。中盤のメンバーも、引いて守る相手に対して自らボールを細かく動かし、堅固なブロックを崩す創造的なアイデアとビルドアップのビジョンを能動的に示さなければならなくなる。これは、それまでの成功パターンが通用しなくなる組織的な「カルチャーショック」、いわば急成長企業が上場後に直面する経営スタイルの転換に近い。
前体制の曺貴裁監督はこのトレンドを予測し、FW原大智(現ザンクト・パウリ所属)の移籍を機にポゼッション志向へのスタイル移行を試みた。この変更のなかで台頭したのがMFユン・ソンジュンで、19歳ながら圧巻のプレーで業界を驚かせた。しかし、指揮官の移籍説という内部ノイズによって求心力が低下し、組織変革は道半ばで頓挫した。
新体制のランコ・ポポヴィッチ新監督は、この続きを託される形で、組織の未来を決める究極の2択に直面している。「ロングボール志向の2025年ベース」を踏襲するか、それとも「ポゼッション志向の2026年ベース」へ踏み出すか、である。

「カリスマのフィルター」解除、評価はゼロから
変革を推進する上で不可欠なのが、現有リソースの冷徹な再評価である。前体制の組織には明確な二面性があった。「曺監督というカリスマ性のある指揮官だからこそ輝きを放った人材」と、「独自の戦術フィルターゆえにポテンシャルを停滞させた人材」の二つだ。
前者の典型例がDF宮本優太(現浦和レッズ所属)である。彼の泥臭いハードワークやキャラクターは、前監督の哲学のもとで最大化された。一方、後者を象徴するのがFW木村勇大(現名古屋グランパス所属)だ。独自の戦術的制約に阻まれ、十分な出場機会やパフォーマンスに昇華されないまま足踏みを余儀なくされた。
ポポヴィッチ新監督のもとで、組織は序列や過去の評価を一旦リセットし、スタートラインを横一線に揃えることになる。先入観を排し、評価を白紙に戻したメンバーを新監督のビジョンに染め上げ、プロフェッショナルとして再育成するプロセスがすでに始まっている。しかし過酷な連戦日程が待ち受けるなか、このデリケートな組織再編を完遂するのは極めて困難なミッションになりそうだ。
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