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戦火がサッカー界を直撃。中東危機で起きている5つの異変【2026】

イラン代表 写真:アフロスポーツ

アメリカとイスラエルによるイランへの軍事攻撃、そしてそれに対するイランの報復攻撃により、中東情勢はかつてないほど急速に緊迫化している。この深刻な衝突は地域全体へと波及し、政治経済にとどまらず、航空網やエネルギー市場にまで深刻な影響を及ぼしている。

イラン、イラク、カタール、サウジアラビアなど複数の国が空域を閉鎖または大幅に制限。航空便の停止やルート変更が相次ぎ、国際移動は大きく混乱している。この影響はスポーツ界にも及び、サッカー界では2026年FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会予選への影響、各国プロリーグの運営問題、さらには中東でプレーする選手の安全問題まで、サッカーを取り巻く環境が急速に不安定化しているのだ。

現在サッカー界で「何が起きているのか」「今後何が起こり得るのか」について、最新の動向を5つの重要なポイントから整理してみよう。


イラン代表のボイコットと代替の可能性

なかでも、サッカー界において最大の焦点となっているのが、すでにアジア予選を勝ち抜きW杯出場権を獲得しているイラン男子代表の処遇である。アメリカ・イスラエルによる攻撃で、イランの最高指導者アリ・ハメネイ師らが死亡したことを受け、イランのスポーツ相アハマド・ドニャマリ氏は国営テレビで「腐敗した米国政権が指導者を暗殺した以上、チームが参加することは確実に不可能だ。選手たちの安全が保障されず、参加の条件が根本的に存在しない」と発言。W杯への参加をボイコットする可能性を強く示唆した。

一方で、トランプ米大統領はFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長との会談で「イラン代表の米国でのプレーを歓迎する」と明言しているが、過去にはイラン代表団のビザ発給が拒否されたケースもあり、米国側の入国制限の壁も懸念されている。

では、仮にイラン代表が参加しない場合、代替チームはどのように決定されるのだろうか。FIFA(国際サッカー連盟)の規定(第6.5条および第6.7条)によれば、不可抗力による不参加や辞退が発生した場合、代替チームはFIFAの完全な裁量で選定できると定められている。過去には2025年クラブW杯において、出場資格を失ったメキシコのクラブ・レオンの代わりに急遽プレーオフが開催され、ロサンゼルスFCが出場権を獲得した前例もある。

今回のケースでは、アジア予選で惜敗したUAE(アラブ首長国連邦)やイラクが繰り上がる可能性のほか、イタリアなどFIFAランキング上位国が特例的に選出される可能性など、あらゆる選択肢が予想されている。


悲願のW杯を目指すイラク代表を襲う問題

戦火の拡大は、隣国イラクのW杯への道にも暗い影を落としている。イラク代表は、日本時間4月1日にメキシコのモンテレイで、ボリビア代表またはスリナム代表とW杯出場権を懸けた大陸間プレーオフを戦う予定だが、中東各国の空域閉鎖により、チームの移動には深刻な混乱が生じている。指揮を執るグラハム・アーノルド監督は滞在先のUAEから出国できない状況にあり、さらに各国大使館の閉鎖によって多くの選手やスタッフがメキシコ入国のためのビザを取得できない事態に陥っている。

こうした状況を受け、アーノルド監督はFIFAに対して試合日程の延期を要請。「国外の選手だけで構成されたチームは我々のベストチームではない。40年ぶりの大一番にはベストメンバーが必要だ」と心の叫びを発信した。同時に、もしイラン代表が大会参加を辞退しイラクがストレートでW杯に出場できれば、代わってUAEがプレーオフに臨む時間ができるとも提言している。


イラン女子代表選手が亡命する事態

この政治的対立の余波は、選手個人の人生をも破壊しようとしている。オーストラリアで開催されていたAFC女子アジアカップに出場していたイラン女子代表の選手5名が、大会終了後に母国への帰国を拒否し、オーストラリア連邦警察の保護下で亡命を申請する事態が発生した。

発端となったのは、大会初戦の韓国女子代表戦だった。選手たちはイラン政権への抗議として国歌斉唱を拒否。これに対し、イラン国営テレビの司会者は彼女たちを「戦時の反逆者」と呼び、「厳しく処罰されなければならない」と公然非難したのである。

身の危険を感じた5名の選手はオーストラリア政府の支援を受け、フィリピン女子代表との最終戦後に行われたチームの夕食会場から姿を消し、安全な隠れ家(セーフハウス)へと逃れた。国際情勢の緊張が高まるなか、スポーツと政治が極限の形で交錯したあまりにも悲劇的な出来事である。

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名前:秕タクオ

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