Jリーグ 町田ゼルビア

町田の刑事告訴で誹謗中傷問題は泥沼化か

藤田晋氏 写真:Getty Images

 J1のFC町田ゼルビアは、10月15日、クラブ及び所属選手・スタッフに対するSNSにおける誹謗中傷に対し、名誉毀損などの疑いで投稿者を東京地検に刑事告訴し、受理されたと発表した。

 この発表に併せ、藤田晋代表取締役社長兼CEOのコメントもクラブ公式サイトを通じて明かされた。その内容は、下記の通りだ。

 「この度、加藤(博太郎)弁護士のご協力の元、弊クラブに所属する選手、監督、スタッフおよび弊クラブに向けて誹謗中傷した者を対象に、刑事告訴をすることとなりました。昨年来、クラブの好調な成績と比例するように、無数の誹謗中傷を浴びており、それはもう酷いものでしたが、これまでは新参者への洗礼かと目を瞑ってきました。しかしながら、もう限界です。既に多大な実害、実損が出ており、これ以上はもう看過しないことを決意しました。『FC町田ゼルビアなら叩いてもいい』、あるいは『FC町田ゼルビア側に叩かれる問題がある』と思い込んでいる人たちの行動は、完全に度が過ぎており、これはイジメの構図と同じです。この状況を変えるには、対象者がインパクトのある処罰を受けることで、コトの重大さを理解してもらうしかないと思っています。今後、継続的に、かつ徹底的に、我々は断固たる姿勢で誹謗中傷に対処して参ります。本件をきっかけに、弊クラブの選手・監督・スタッフが、1日でも早く、サッカーに集中できる状態に回復することを願います」

 加藤弁護士によると、SNS上でチームの選手や監督、スタッフらに対し、「ヤクザ」「チンピラ」「犯罪者顔」「存在が粗大ごみ」「日本サッカー界に不要」など、サッカーと何の関係もない誹謗中傷があったとされ、刑事告訴に至ったとしている。

 クラブに設置した通報窓口には、これまでに約1000件の誹謗中傷に関する情報が寄せられたという。クラブの危機に、ついにトップが動いた形だが、町田サポーターにとっては、「やっとか…」といった心持ちだろう。

 前述した誹謗中傷の内容に関しては、決して許されない文言であり、投稿者はそれなりの罰を受けて然るべきだろう。仮に逮捕者が出て、容疑者の実名や、どこのサポーターだったかが明かされることになれば、これ以上ない抑止力となるだろう。

 しかし、町田のフロントは最も大事なことを秘しているというのが、このニュースに触れた第一印象だ。それは、「実害、実損」の具体的な内容だ。

 観客動員が減ったという事実がない以上、仮にスポンサーが離れたのだとすれば、それを正直に話した方が誠意ある対応だったのではないだろうか。「イジメの構図」と断言するのであれば、被害を金額換算で示さなければ、その言葉は説得力に欠くだろう。

 さらに通報窓口に寄せられた約1000件もの情報の中で、どれくらいの割合で“誹謗中傷”にあたる投稿があったのかも気になるところだ。

 Jリーグ史上初といえる、他サポーターへの刑事告訴という事態にまで発展した事件だ。再発防止のためにも、もっと情報をオープンにした方がベターではなかったか。

 さらに踏み込めば、この事態を招いた端緒となったのは、藤田氏が言うところの「新参者だから」ではない。黒田監督の一連の発言と町田イレブンの試合中の態度であることは否定しようのない事実だ。もし藤田氏がこの事実まで否定するならば、他クラブのサポーターから、さらなる批判を受けるだろう。「被害者」であることと、「被害者ヅラ」することでは、全く意味合いが異なるからだ。この問題に対し、トップである藤田氏が、クラブ内部が抱える問題を直視したのかどうか疑問が残る。

 来るところまで来てしまった感のある今回の騒動。実際に刑事告訴したことで、逆に法律で守られる立場となった町田の黒田監督や選手が「これでやりたい放題だ!」と、少しでも思ったのであれば、大きな間違いだ。逆に、その一挙手一投足を厳しく観察される立場となるのは必定だ。

 最後にクラブ側が発した声明をそのまま町田にお返ししたい。「節度ある行動を何卒宜しくお願いします」と。