その他 女子サッカー

英女子サッカー界を発展させた大胆な3年計画とは

スー・キャンベル氏(左)写真:Getty Images

大胆な3年計画

キャンベル氏が打ち出した具体的な目標は「3年間で女子サッカー全体の様々なことを2倍にする」だった。ローリー氏が所属するマーケティング部門では、WSLの観客数を2倍にすることを課題として掲げた。そこで取り組んだのが、リーグのシーズンを夏から冬へと大胆に変更するというものだった。この取り組みが生んだいくつかの利点の中でも特筆すべきは、他のカップ戦やUEFA女子チャンピオンズリーグなどの大会とシーズンが合うようになったこと。そしてWSL以外の国際大会に出場する選手たちが、準備期間をしっかり確保できるようになったことが挙げられる。選手のコンディションを良好に保つことが出来れば、良い試合が生まれ、結果的に観客の増員にも繋がっていく好循環が期待できる。

その後2018年から2019年にかけては、WSLの構造的な変更を実施。特に「リーグのプロ化」は大規模な変化となった。在籍選手たちは、サッカー業務を1週間に最低16時間行う条件のフルタイム契約となり、リーグ自体の商業的な価値も上がりはじめ、2019年にはついに英国の国際金融機関『バークレイズ』がスポンサーとして正式契約を結んだ。さらに、同年開催のFIFA女子ワールドカップ(W杯)フランス大会でイングランド代表チームが準決勝まで勝ち進んだこともあり、英国内では徐々に女子サッカーに追い風が吹き始める。

WSLに所属する各クラブでは、女子チームが男子チームの利用するメインスタジアムで試合をすることも多くなり、結果的に2万~3万人と万単位の観客数を生み出すことに成功した。平均観客動員数が1000人以下だった2016年と比較すると、キャンベル氏が目標とした「2倍」を遥かに超えた人数を達成するまでに成長した。


イングランド女子代表 写真:Getty Images

発展し続ける英国女子サッカー界

ローリー氏が2016年からFAで経験したキャンベル氏の施策は、WSLを成長させただけでなく、英国内での女子サッカー人気を引き上げることにも成功したと改めて感じる。

実際、2020年から2021年には英国内の主要放送局『スカイスポーツ』や『BBC』がWSLと契約。2022年7月にはUEFA欧州女子選手権(欧州サッカー連盟)で、イングランド女子代表が優勝を勝ち取ったことにより英国での女子サッカーの地位が決定的なものとなった。当時、決勝戦開催地のウェンブリースタジアム(ロンドン)には、なんと8万7千人を超える人々が集結し、テレビで観戦した人は1,740万人にものぼった。トーナメント全体では約60万枚のチケットが販売され、購入者の39パーセントはZ世代の若者だったという。

2024年2月時点、WSLには日本人選手が9名所属している。今後もWSLを含む英国女子サッカー界は、さらなる先進的変化を遂げていくだろう。日本のWEリーグ発展と共に、ゆく先が非常に楽しみだ。

ページ 2 / 2

名前:Molly Chiba
趣味:自然散策、英国のあれやこれやをひたすら考えること
好きなチーム:トッテナム・ホットスパーFC

東北地方の田園に囲まれ育ちました。英国のフットボール文化や歴史、そして羊飼いやウールなどのファッション産業などに取り憑き、没入している日本人女性です。仕事のモットーは、伝統文化を次世代に繋ぐこと。

筆者記事一覧