2022年のFIFAワールドカップカタール大会(カタールW杯)は、初めての中東地域でのW杯開催という新たな歴史を刻んだ。また同時に、カタールにおける外国人労働者への人権侵害や性的少数者への差別的な慣習などを巡り、人権に関する国際問題も浮き彫りとなった。
これらはサッカーによって引き起こされたというよりも、元々問題視されていたことがW杯開催で表面化したことと言えよう。欧州では抗議の動きが広がった。またドイツ代表が日本代表との試合前の記念撮影時に、反差別を訴える腕章の着用をFIFA(国際サッカー連盟)が認めなかったことへの抗議として、口を手で覆うなどした。
そんななか世界には、真正面からそうした国際問題と向き合い、解決するためにサッカーを導入している取り組みも存在する。この記事では、その一部を紹介していこう。ケニアのナイロビに拠点を置くマサレ・ユース・スポーツ協会(MYSA)の取り組みと、ケニア・プレミアリーグに所属するマサレ・ユナイテッドを是非知ってほしい。
マサレ・ユース・スポーツ協会(MYSA)の目的
アフリカの貧困や人権問題に対する解決策への取り組み、そしてコミュニティ開発を目的に、1987年に元カナダ外交官のボブ・マンローという人物が、アフリカ東部ケニア共和国の首都ナイロビにあるマサレ地区に、マサレ・ユース・スポーツ協会(MYSA)を設立した。
このマサレ地域は、ナイロビの近代化が進むビジネス街の膝元に位置するにもかかわらず、国内最大規模の貧困化が進んでいる場所だ。ナイロビで一般的に我々が想像する「普通の生活」を送っているのは、首都圏内に暮らす一部の富裕層であり、現地の市民生活は厳しい。実際にナイロビだけで、100以上のスラム(貧困問題が過密している住宅地域)が存在している。
物理的な物資や金銭などの支援はもちろん重要だが、精神面で塞ぎ込んでしまう若者に対する自立支援などは、それ以上に必要なことであり難しい問題だ。この問題をなんとか和らげようと、MYSAの発起人マンロー氏が考えたコミュニティ開発に関するアイデアとは、世界中の人々が知っているスポーツの1つ「サッカー」に焦点を当てた方法だった。
極貧スラムからマサレ・ユナイテッド誕生へ
MYSAは、ケニア国内のサッカークラブに参加しているスラムで暮らす若者達に対して、地域社会の奉仕活動などのコミュニティ開発や、HIV教育(エイズ防止策)、ジェンダー問題解決のための男女平等を支援するプロジェクトを紹介している。現在(2023年1月末時点)2052のサッカークラブの30,000人以上の若者が同協会のプロジェクトに参加。サッカーに着目したことがきっかけで、設立当初に比べると急速に興味を持ち参加する若者が増加したそうだ。
そして、同協会にも独自のサッカークラブ「マサレ・ユナイテッド」が誕生。会長は創設者のボブ・マンロー氏で、現地のクラブニックネームは「スラム・ボーイズ」だ。
「スラム・ボーイズ」のニックネームを返上するかの如く、2023年には驚くべきことに、ケニアのプレミアリーグに所属するプロクラブへと成長したマサラ・ユナイテッド。ケニアの代表チームへも選手を輩出している。
さらに男子だけではなくマサレ・ユナイテッド・レディースという女子チームも存在し、ケニアのプロサッカーリーグである女子プレミアリーグに所属。男女共に、国内最上位のプレミア選手達が同協会から輩出されるようになった。
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