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「ホームレスW杯」から読み解くサッカーの偉大なる可能性

2018ホームレスW杯 ブラジル代表 写真:Getty Images

一般的にサッカーのワールドカップ(W杯)といえば、現在注目されているFIFA(国際サッカー連盟)が開催している大会のことを指す。世界中から多くの国々が参加し、プレミアリーグやブンデスリーガなどの大リーグで活躍している選手が母国の代表選手としてプレーをする。非常に華やかであり、周囲を取り囲むスポンサーも相当な数だ。

もう1つのW杯、ホームレス・ワールドカップ(HWC)という存在も忘れてはならない。


2009ホームレスW杯 日本代表対フィリピン代表 写真:Getty Images

71か国が加盟するHWCとは

ホームレス・ワールドカップ(HWC)は、イギリスのスコットランドにあるHWC財団が2003年に立ち上げたサッカーの世界大会で、毎年各国で開催されている(2020〜22年はコロナウイルス感染拡大の影響で中止)。財団の目的は、サッカーを通じてホームレスの人々の人生に変化を与え、将来的にホームレスのない世界にすることだ。

現在(2022年12月時点)HWCに加盟している国は、世界196カ国の内71カ国。具体的には、アフリカ14カ国、アジア・オセアニアは日本を含めて13カ国、ヨーロッパ31カ国、北米・中米・カリブ海6カ国、南アメリカ7カ国となる。これらの加盟国のさまざまな草の根ボランティア団体が、HWC財団と共に協力しながら大会開催を成功させている。

日本で公式パートナーとして登録されているのは、特定非営利活動(NPO)法人ダイバーシティサッカー協会だ。同協会はHWCに参加する日本代表チーム「野武士(のぶし)ジャパン」の選手選考や派遣などを行なっていて、過去には2004年のスウェーデン大会、2009年ミラノ大会、2011年パリ大会に出場した実績がある。

これまでHWCは、2003年の第1回オーストリア・グラーツ大会から、2019年の第17回ウェールズ・カーディフ大会まで毎年行われてきた。そして2020年からの3年間はコロナウイルスの為に中止を余儀なくされ、来年2023年は再開予定としている。来年は第1回大会の開幕から20周年となり、選手にとっても財団としても特別なW杯となりそうだ。


チェルシー FWラヒーム・スターリング 写真:Getty Images

サッカーで人生を変えた選手たち

HWCに代表選手として参加している選手たちは、非常に困難な状況を経験していることがほとんどだ。HWCハンガリー代表選手の1人、ジェームス・ヌワンコの例を紹介しよう。

ナイジェリア出身のヌワンコは、ウクライナの都市部にある大学に入学し学業に励んでいた。その最中にロシアとの戦争が勃発し、決死の想いで一時的にポーランドの国境へ逃亡、ハンガリーへと入国する。予期せぬ状況で現実を受け止めることも難しい中、生活のために仕事を探すのだが、「難民」という立場がハンガリーでは大きな壁となってしまう。

結果的に、路上での生活を余儀なくされたヌワンコ。現地のHWC公式パートナー財団によって、ハンガリー代表チームメンバーの1人として活躍をしている。この状況にもかかわらず「夢は家族のサッカー選手になること」と語るヌワンコの前向きな思考は、サッカーをプレーすることにより生きる糧が構築されているからと考える。

また、イングランド代表でもあり、プレミアリーグのチェルシーで活躍中のFWラヒーム・スターリングも、かつて出身国ジャマイカから現在のイングランドへと引っ越した後に周囲の環境に馴染めず、苦難を強いられていた時期があった。しかし、ストリートサッカーの存在がスターリングの精神面での強い支えとなり、サッカーさえあれば毎日を楽しく過ごす事ができたと語っている。

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名前:Molly Chiba
趣味:自然散策、英国のあれやこれやをひたすら考えること
好きなチーム:トッテナム・ホットスパーFC

東北地方の田園に囲まれ育ちました。英国のフットボール文化や歴史、そして羊飼いやウールなどのファッション産業などに取り憑き、没入している日本人女性です。仕事のモットーは、伝統文化を次世代に繋ぐこと。

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