
MUFGスタジアム(国立競技場)で、Jリーグの大規模無料招待キャンペーンが行われている。2026/27シーズン、8月開催の5試合で合計5万人(各試合1万人)を無料招待する内容で、対象は8月14日の東京ヴェルディ対柏レイソル、8月16日の横浜FC対ジュビロ磐田など。9月開催分でも合計3万人規模の招待が予定されており、応募にはJリーグID登録などが求められる。
Jリーグはこれを、新規ファンやコロナ禍を機に足が遠のいたファンをスタジアムへ呼び戻す入口と位置付ける。単なる無料配布ではなく、IDを通じて継続的な接点を築く「サンプリング」という説明だ。2025シーズンには、無料招待施策への延べ応募が約282万件、新規JリーグID獲得が約14万6,000件に上り、新規来場者のリピート率は30%を超えたという。背景には、DAZNによる配信が主流となり、地上波・BS放送時代に比べてライト層との接点が弱まった視聴環境の変化がある。無料招待は、リーグやクラブ側がスタジアム体験の入口を作るための手段の一つだ。FIFAワールドカップ(W杯)北中米大会の盛り上がりをJリーグ人気につなげるビジネスチャンスという見方もできる。
ここでは、実際の観戦経験を踏まえ、この施策が新規ファン獲得にどれだけ寄与しているかを検証する。会場ごとに異なった観客の熱量、応募手続きの煩雑さが新規層に与える影響、リーグ側が公表するデータと現場の実態との乖離を見たうえで、施策の設計に何が求められるかを示したい。

東京V対柏戦で見えた新規層の熱量の低さ
筆者は、無料招待に2試合当選し、8月14日の東京ヴェルディ対柏レイソル戦(1-3)を、両チーム応援可能なサイドミックス指定3層席(定価4,700円)で観戦した。これまでは”推しクラブ”の試合のチケットを買った上で応援していたが、どちらのファンでもない立場で観戦でき、「試合そのものを見る」という意味では貴重な時間だった(観客動員数は4万4,690人)。
しかし、東京V対柏戦での周囲の様子は、リーグ側が示した目的との乖離を感じさせるものだった。試合を見ずに寝ているサラリーマンや、ハーフタイムで帰る家族連れが目立ち、双方のファンでないことを差し引いても、試合への熱量は明らかに低かった。
リピーターらしい観客が多い印象も強かった。初めてスタジアムに来た層が多数を占めるはずの無料招待エリアが、双方のサポーターが入場可能のミックス席であったことで、リピーターや両チームのユニフォーム姿が目立った。この光景は施策が意図した新規ファンの掘り起こしに十分つながっていない可能性を示している。国立競技場というサッカーの聖地であっても、熱量が伝わらない空間では、初めての観戦体験が「また行きたい」という動機に転換しにくい。

横浜FC対磐田戦、満員でも埋まらなかったメイン席
もう1試合は8月16日の横浜FC対ジュビロ磐田戦。こちらはバックスタンド3階自由席(定価2,500円)での観戦。座席の属性が異なり、東京V対柏戦とは対照的に熱気は十分だった。空席もほぼ無く、”立錐の余地もない”と言っても過言ではなかった。実際、J2史上2位となる5万3,973人の大観衆となった(J2史上1位は2024年9月28日、J2第33節清水エスパルス対横浜FC戦の5万5,598人)。
ただこの試合、4日前の8月12日に、チケット完売のリリース(アウェイゴール裏指定席と車椅子席を除く)があったはず。ところが最も価格の高いメインスタンド1階指定席のゾーンに空席が目立った。甘く見積もっても半数ほどしか埋まっていなかった。考えられる理由としては2つ、横浜市在住のシーズンチケット購入者が「国立競技場は遠い」と足が向かなかったこと、もう1つはスポンサーに多数の招待券を配布したが来なかった可能性だ。下衆の勘繰りであることは承知だが、仮に後者が主な理由であれば、”タダでも来ない”スポンサー関係者を招待する意味などあるのだろうか。考えさせられてしまう。
無料で入場した観客がスタジアム内で飲食やグッズを購入すれば、クラブに二次的収益をもたらす可能性はある。しかし、試合そのものへの関心が薄い状態では、そうした消費行動も限定的になりやすい。
コメントランキング