
審判もまた、差別をした
観客や選手間だけでなく、審判による差別事例もある。2020年12月8日のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)、パリ・サンジェルマン対イスタンブール・バシャクシェヒル戦が典型だ。
ルーマニア人の第4審判セバスティアン・コルテスク氏が、バシャクシェヒルのアシスタントコーチ、元カメルーン代表FWのピエール・ウェボ氏を肌の色で指し示す表現を使ったとして、両チームの選手がプレーを拒否してピッチを去った。試合は翌日に別審判団で再開されたものの、前代未聞の事態として世界中に衝撃を与えた。UEFAはコルテスク氏を2020-21シーズン終了まで職務停止とする処分を下した。
ルールを守らせる側の審判にまで差別が浸透しているという事実は、問題の底深さを改めて突きつける。

リーグによって異なる差別の顔と対策の現状
ラ・リーガでは黒人・アジア人選手へのサポーターによるチャントが問題化しやすく、セリエAでも歴史的にモンキーチャントが頻発する。リーグ・アンでは移民背景を絡めた人種・宗教差別が目立ち、プレミアリーグはスタジアム内の環境は改善傾向にあるものの、SNSによる中傷が増加している。ブンデスリーガは比較的ファンへの啓蒙が進んでおり、対応が迅速とも言われる。
UEFAや各国リーグは反差別キャンペーンと「警告→中断→打ち切り」の3段階プロトコルを導入しており、スタジアム一部閉鎖、無観客試合、罰金、勝ち点剥奪といった処分も実施されている。イングランドでは加害者個人への永久入場禁止や刑事罰が適用されるケースも多い。
Jリーグ唯一の制裁、浦和「JAPANESE ONLY」事件
Jリーグにおいて差別を理由とした制裁が下った唯一の事例は、2014年3月8日のJ1第2節、浦和レッズ対サガン鳥栖戦(埼玉スタジアム)に遡る。浦和のサポーターグループが「JAPANESE ONLY」と書かれたバナーをホーム側ゴール裏スタンドのコンコースに掲出し、その写真がSNS上で拡散された。当時の村井満チェアマンは制裁として、同年3月23日開催の第4節・清水エスパルス戦をJリーグ史上初となる無観客試合とした。
あの決断が差別の萌芽を摘む役割を果たしたことは間違いないが、それから10年以上が経った今、「日本人ファースト」を掲げる右派系政党が支持を集める時代でもある。その政治思想の是非は別として、仮に今同様の事象が起きたとき、Jリーグ側が同じ決断を下せるかどうか、考えさせられる。
対策は進む。しかし道は遠い
欧州各国の政府、サッカー協会・連盟、リーグ側が手をこまねいているわけではなく、差別撲滅に向けた啓蒙活動は続けられている。それでも他競技に比べてサッカー界に差別が根強いのはなぜか。完全解決には数十年単位の時間と社会全体の変化が必要なのかもしれない。日本人選手が「中国人と混同」される形で侮辱される事例が繰り返されるたびに、差別が知識の欠如だけでなく、意図的な蔑視から来ていることを忘れてはならない。
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