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ジェラール・ピケが世界に広める「キングス・リーグ」はスポーツか余興か

イタリア代表 VS 日本代表 写真:Getty Images

スポーツかエキシビションか

チェアマンのピケ氏は、このスポーツを立ち上げた動機として若者のサッカー離れを指摘し、「サッカーの90分という時間は長過ぎる。タイムパフォーマンスを重要視するファンに受け入れられるコンテンツとして世界に発信したい」と胸を張っている。タイパ重視の流れは日本のZ世代だけの話ではないようだ。

スペインでは人気が爆発し、バルセロナの本拠地カンプノウや、アトレティコマドリードの本拠地エスタディオメトロポリターノを満員にした。YouTubeやTikTokなどでの配信では、約200万人が視聴したという。また、キングス・ワールドカップ・ネーションズは、日本でもDAZNや、キングス・リーグ公式YouTubeで配信された。

キングス・ワールドカップ・ネーションズ2025で、人気YouTuberの加藤純一氏がオーナーを務める日本代表のムラッシュFCは、いきなり初戦で開催国イタリア代表を破る大金星を挙げたが、その後アルゼンチン代表とモロッコ代表に敗れ、準々決勝進出を逃した。しかし、この試合結果を日本のスポーツメディアが報じた様子はない。これはスポーツではなくエキシビションと判断されたのだろう。

肝心の試合内容だが、ドロップボールで試合が開始されると同時にハイテンションなゲームが展開される。オフサイドルールがなく、スライディングタックルも禁止されているため、多くの得点が生まれ、確かに若者には受けそうではある。

しかしながら、これをサッカーとして見ると物足りなさを感じる。あまりにもせわしなさ過ぎて、サッカーの醍醐味の1つでもある「戦術」があるようには思えないからだ。さらにゲーム性を高めるために採用されたシークレットカードによって試合の「流れ」も排除され、ドタバタとした点取り合戦に終始している印象を受ける。一度見るとその目新しさに惹かれるが、2、3試合も見ればどの試合も同じような展開で飽きてしまうのだ。


イケル・カシージャス 写真:Getty Images

米国や日本でブームを巻き起こす可能性は

冬季と夏季の2シーズン制で開催されているキングス・リーグは、12チームのリーグ戦に始まり、上位8チームによるプレーオフで優勝を争う。

元スペイン代表GKイケル・カシージャス、元アルゼンチン代表FWセルヒオ・アグエロといった往年の名選手や、スペインの人気YouTuberのイバイ・リャノスといったインフルエンサーがクラブオーナーを務める。ゲストプレーヤーとしては、FWロナウジーニョ、FWネイマール、FWアンドレイ・シェフチェンコ、MFアンドレア・ピルロ、MFホアキン・サンチェス、FWジブリル・シセ、DFジョアン・カプデビラ、FWハビエル・エルナンデス、DFパブロ・サバレタといった大物も過去にプレー。日本からは元代表DF那須大亮も、第1回の同大会に参戦した。

ピケ氏は欧州での成功を手にし、今度はアメリカ大陸でキングス・リーグを広めようとしているが、スポーツビジネス大国の米国で成功するかは不透明だ。現在、最も勢いのあるリーグの1つであるメジャーリーグサッカー(MLS)の牙城を崩す作業は簡単ではない。

日本においても、キングス・リーグがブームを巻き起こす可能性は限りなく低いと言わざるを得ないだろう。カードやサイコロによってどんでん返しが起こるルールが、公平性を是とする日本人には到底受け入れられないと考えるからだ。この競技に真摯に向き合っている選手にとっては耳が痛いだろうが、つまるところ、成功したYouTuberが資金を出して始めた“サッカーもどき”の域を出ないだろう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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