Jリーグ

J3全クラブ監督の通信簿&続投可能性

写真:Getty Images

2024シーズン明治安田J3リーグは全日程を終了し、圧倒的強さで優勝し1年でのJ2復帰を決めた大宮アルディージャと、2位のFC今治の、来季J1昇格が決定した。しかし残りの昇格1枠を目指し、J3では初となるJ2昇格プレーオフが残されている。

プレーオフ進出を決めた3位のカターレ富山と4位の松本山雅には、準決勝において「引き分けでも決勝進出」というアドバンテージがある。しかし、タイムアップの笛が鳴るまで何が起きるか分からないのがプレーオフだ。

一方で、昇格クラブやJFL(日本フットボールリーグ)降格クラブも含め、各クラブが来2025シーズンへ向けて動き出している。プロ初指導となるルーキー監督から、指導歴10年を超える大ベテラン監督まで、多士済々の指揮官が揃うJ3。ここでは監督人事にフォーカスし、既に始まっているシーズンオフの動きについて深堀りしたい。

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石崎信弘監督 写真:Getty Images

ヴァンラーレ八戸:石崎信弘監督

評価:★★★☆☆/続投可能性:100%

昨2023シーズンにヴァンラーレ八戸に就任しチームをクラブ史上最高の7位に押し上げると、今2024シーズンも最終節まで昇格プレーオフ争いを展開し、11位という成績を収めた石崎信弘監督。1995年、当時JFLのNEC山形(翌年から「モンテディオ山形」に改称)で監督業をスタートさせ、指揮したクラブは実にのべ12。試合数も通算800試合にも上る、Jリーグの生き字引だ。

2013年には、中国超級(1部)杭州緑城(浙江)で当時の岡田武史監督に請われる形でユースチームの監督も務めた。その練習は、選手個人のフィジカルとテクニックを徹底的に磨き上げる基礎的なメニューで、川崎フロンターレ時代に指導を受けた中村憲剛氏に「キツかったが、あの練習が僕の土台となっている」と言わしめるほどだ。

八戸は、全Jクラブ最低クラスの1億2,000万円程度のチーム人件費。ホームスタジアムのプライフーズスタジアムも、サッカー専用だが収容人数は約5,000人と、こぢんまりとしたものだ。

2019シーズンからJ3に参戦した後は、毎年監督をすげ替えてきたが、2シーズン目を完走した時点で、クラブ最長記録を更新している石崎監督。この低予算クラブで結果を出したことで、66歳となった現在でも存在感を示している。戦術家というよりモチベーター色が強く情にも厚いことで、同監督を慕い「一緒に戦いたい」と移籍してくる選手がいるほどだ。

最終節前日の11月23日に続投が発表された。来2025シーズンも引き続きJ2昇格を目指すことになるが、“その日”のために、スタジアム拡張などハード面の充実は急務だ。


星川敬監督 写真:Getty Images

いわてグルージャ盛岡:星川敬監督

評価:★☆☆☆☆/続投可能性:100%

開幕から低空飛行を続け、最終節を待たずにJFL降格となってしまったいわてグルージャ盛岡。総得点「27」も総失点「80」もリーグワーストで、得失点差「-53」では言い訳のしようもないだろう。

チーム人件費はJ3中位の約2億5,000万円だが、トップスコアラーにして背番号10を与えられたナイジェリア出身のMFオタボー・ケネスは5ゴールに終わった。22歳の彼に攻撃陣を引っ張る役割を与えるには、やや若すぎた印象だ。

星川敬監督は、現役時代、読売ユースから1995年にヴェルディ川崎に入団。当時はカズ(三浦知良)、ラモス瑠偉、武田修宏らが集うスター集団で、1試合も出場することなく2年で引退。指導者の道を進むことになるが、2009年初監督を務めた女子サッカーの日テレベレーザでは「クラブの秩序と統制を乱す」行為をしたとして2010年7月に解任された。見込みのある若手選手に海外移籍を勧めたというのが、その真相のようだ。

その直後の11月、同じく女子のINAC神戸レオネッサの監督に就任。後に2011年のドイツ女子W杯を制したなでしこジャパンの主将としてバロンドーラ―(FIFA世界最優秀選手)となるMF澤穂希やFW川澄奈穂美、FW大野忍などを擁し、なでしこリーグと皇后杯の2年連続2冠を達成し、黄金時代をもたらす。

INAC神戸の監督を勇退した後は、イングランド、ポーランド、スロベニア、ラトビアで監督やコーチを務めた。帰国後ポゼッションを重視する手腕が買われ、2022シーズンからY.S.C.C.横浜の監督に就任。2023シーズン途中で解任されるが、2024シーズン盛岡で、中三川哲治監督、神野卓哉監督と2度の監督更迭の末、8月に指揮官に指名された。

しかし、第13節以降一度も最下位脱出がならないまま、第37節奈良クラブ戦での敗戦(1-2)でJFL降格が決まってしまった盛岡。GK大久保択生やDF西大伍、MF水野晃樹、FW都倉賢といったJ1経験のあるベテランも多く在籍していたが、就任当時すでに崩壊状態にあったチームを救うことはできなかった。

その手腕を発揮する間もないままシーズンが終わってしまった感があり、続投というフロントの決断にも納得はできる。しかしながら、毎日のように選手の契約満了のニュースが発信されている現状を見ると、来季2位以上を目指すことになるJFLを戦えるだけの戦力を揃えることができるのか。クラブの顔だったオーナー兼社長の秋田豊氏が退任することが決まっている中、フロントの底力が問われている。


寺田周平監督 写真:Getty Images

福島ユナイテッド:寺田周平監督

評価:★★★★☆/続投可能性:100%

11月17日、ホームでのアスルクラロ沼津戦(とうほう・みんなのスタジアム)を2-1で制し、J2昇格プレーオフ進出をほぼ確定させた翌日の18日、寺田周平監督の続投を発表した福島ユナイテッド。

現役時代は身長189cmを誇る長身を生かし、川崎フロンターレのDFとして活躍し、身長183cmの伊藤宏樹、187cmの箕輪義信と組んだ3バックは「川崎山脈」と呼ばれた。

現在49歳の寺田監督は引退後、川崎のコーチを務め(2020-23)、今季から福島の監督に就任。初の監督業への挑戦となったが、J3の中でも下位の人件費のチームを率い、攻撃的サッカーを志向しながら結果も出したことで、鬼木達監督が退任した川崎の次期監督候補にも名前が挙がった。続投のニュースには、サポーターも一安心したことだろう。

福島は当然ながらJ2昇格を目指してプレーオフに挑むのだが、例え敗退して来季もJ3を戦うことになったとしても、ポジティブに捉えることもできる。長期的視点に立てば、J2に昇格して守備に追われるよりも、寺田監督が理想とする攻撃的なチームを構築するにあたっては却って良いのではないか。

16ゴールを記録した生え抜きFW塩浜遼や、背番号10を背負うFW森晃太、滝川二高時代に2010年の全国高校サッカーで得点王に輝いたFW樋口寛規を軸に、川崎からのレンタル選手の19歳MF大関友翔、20歳の左サイドバックDF松長根悠仁らが噛み合うチーム構成。好成績に繋げたが、沼津戦でもゴールを決めた大関と松長の去就が、来2025シーズンの福島の命運を握っている。


長澤徹監督 写真:Getty Images

大宮アルディージャ:長澤徹監督

評価:★★★★★/続投可能性:90%

まさに「圧倒」といえる強さだった大宮アルディージャ。開幕10戦を7勝3引き分けで第5節に首位に立つと、その座を一度も譲ることなく独走。シーズンを通して2敗しかせずに、2位のFC今治に勝ち点差15を付け、他チームのサポーターに「なぜこのチームがJ3に降格したのか?」と感じさせるほどの昇格劇だった。

リーグ最少タイの総失点「32」という守備の固さはもちろん、リーグ最多の総得点が「72」でありながら、トップスコアラーはFW杉本健勇の10得点。2桁得点は彼のみで、どこからでも得点できるのがチームの強みだ。長澤徹監督は、かつてクラブ最高成績でJ1昇格プレーオフに導いたファジアーノ岡山時代(2015-18)と同様、選手にはハードワークを求め、堅実なチームを作り上げた。

Jリーグ初となる外資系企業がオーナーとなり、「レッドブル」主導で改革が加えられていくことになる大宮。早速、チームの呼称も「RB大宮アルディージャ」となり、エンブレムも変更され、長らくマスコットだったリスの「アルディ」も姿を消した。クラブとしても生まれ変わったことで、J2を戦う来シーズン、他クラブは警戒心を持って挑んでくるだろう。

今季7ゴールを記録したMFアルトゥール・シルバ、さらに夏の移籍で加入したFWファビアン・ゴンザレスやMFオリオラ・サンデーという強烈な外国人選手を揃えているが、守備陣に目を移すと、19歳のユース育ちのDF市原吏音や、明治大出身の大卒ルーキーDF村上陽介が中心となっており、経験値の観点でやや不安を残す。中盤を司るMF小島幹敏やMF泉柊椰もJ2でどれだけやれるかも未知数だ。テクニカルダイレクター(TD)に就任した元ドイツ代表FWマリオ・ゴメス氏がどんな補強をするかに注目が集まる。


Y.S.C.C.横浜 サポーター 写真:Getty Images

Y.S.C.C.横浜:倉貫一毅監督

評価:★☆☆☆☆/続投可能性:30%

Jリーグでは珍しく、NPO法人が運営しているクラブであり、そのルーツは1964年にまでさかのぼるY.S.C.C.横浜。1986年に現在の呼称に改称。設立当初は育成年代のクラブとして存在し、後になってトップチームが設立され、神奈川県リーグ、JFLを経て、2014シーズンからJ3入りした異色のクラブだ。

NPO法人ゆえチーム人件費はJ最低で、大型補強はおろかアマチュア選手も混在。8位に食い込んだ2021シーズン以外は2桁順位が続いたが、ニッパツ三ツ沢競技場をホームに“横浜第3のクラブ”として存在感を示してきた。しかし今2024シーズン、ついに降格圏内の19位に沈み、12月1日と12月7日、JFL2位の高知ユナイテッドを相手にホーム&アウェイで開催されるJ史上初のJ3・JFL入れ替え戦に臨む。

JFL降格ならもちろん、J3に残留したとしても、FC琉球時代(2022-23)にも結果を残せなかった倉貫一毅監督を続投させるメリットは見当たらない。先立つもののないクラブであるため、残留に成功すれば続投という線もあり得るが、降格となれば今季限りでの退任が濃厚だろう。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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