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サッカーのルール変更の歴史。アウェイゴール、キックイン、オフサイド…

FIFA 写真:Getty Images

現在サッカーの試合において定着した「5人交代制」(従来は3人まで)は、元々はコロナ禍で一時的に導入されたものだった。2020年に恒久化されると、選手の体調に合わせたプレータイム管理が容易となり、監督にとっても戦術的柔軟性が増し、特に後半の逆転に繋がるための「3人同時交代」も珍しくなくなった。その結果、サッカーのエンターテインメント性が向上したといえるだろう。

サッカーのルールは時代と共に進化し、試合をエキサイティングなものにするため、数多くの変更が加えられてきた。ここでは、歴史的なルール変更の中でも特に影響が大きかったものを中心に紹介し、その背景と影響を示していきたい。


アレクサンデル・チェフェリン氏(右)写真:Getty Images

アウェイゴールルール(1965年導入、2021年廃止)

アウェイゴールルール自体は1965年に生まれたもので、ワールドカップ(W杯)予選プレーオフでも採用されていたが、その知名度が一気に上がったのは、欧州チャンピオンズリーグ(CL)などUEFA(欧州サッカー連盟)主催の大会で採用された2004/05シーズンだ。

決勝トーナメントにおいて、ホーム&アウェイを終えた末に同点で終わった場合、アウェイでの得点を2倍として決着を付けるこのルール。延長戦を減らし、少しでも選手の体力的負担を少なくするために採用され、攻撃的なサッカーを促す狙いもあった。

このルールは多くのドラマを生んだが、年を重ねるうちに“対策”してくるクラブも現れる。

例えばアウェイの第1戦で点を取り合った末にドローで終えたチームが、第2戦を迎えたケースで、ホームゲームにも関わらず“ドン引き”し、スコアレスドローを狙う事象が目立つようになった。特に、守備に特長のあるイタリア、セリエAのクラブにおいてこの傾向は顕著で、欧州カップ戦においては強さを発揮したが、大一番で“凡戦”を見せられたホームの観客からは不興を買った。そして、得点が求められる場面での攻撃の迫力を欠くことにもなり、その結果、イタリア代表は2大会連続でW杯出場を逃すことにも繋がってしまう。

Jリーグでもルヴァン杯で同ルールが採用されたが、2021/22シーズンにルール改定が行われ、UEFA大会でのアウェイゴールルールが撤廃されると、日本も追従しこのルールは世界から消えることになる。

導入当初は「妙案」ともてはやされたが、皮肉なことに「得点を奪う」ことよりも「失点を防ぐ」ことに重きを置く傾向を促す結果となってしまった。UEFA会長のアレクサンデル・チェフェリン氏は「アウェイチームに大きなアドバンテージとなる失点を恐れるあまり、特に第1戦のホームチームに対して攻撃を思いとどまらせている。このルールのインパクトは本来の目的と逆行している」と述べた。

ルール廃止後は、アウェイチームのプレッシャーが減り、オープンな試合展開が増えた。特に第2戦で点の取り合いが増えたことが、その効果を証明しているだろう。


中田英寿 写真:Getty Images

キックイン(1993年導入、同年廃止)

FIFA(国際サッカー連盟)が実験的に導入したキックイン(試合を再開する際に用いられるスローインをキックで行う)は、フットサルやビーチサッカーでは一般的なルールだが、これを11人制サッカーで採用する試みがなされたのは、日本で開催された1993年のワールドユース(現FIFA U-17世界選手権)だった。

その狙いはサッカーをより攻撃的にするというものだったが、日本代表はじめ多くのチームが採用した戦法は、その狙いと逆行するものだった。キッカーが決まっていたことで、ボールがサイドを割る度、試合が止まってしまう時間が長くなってしまったからだ。

この大会でU-17日本代表は、小嶺忠敏監督(2022年死去)の下、イタリア代表とスコアレスドロー、メキシコ代表を2-1で下し、グループ2位で決勝トーナメント進出。決勝T1回戦でナイジェリア代表に敗れた。

後に日本代表を支えることになるMF中田英寿(当時韮崎高校)、DF松田直樹(当時前橋育英高校)、DF宮本恒靖(当時ガンバ大阪ユース)、DF戸田和幸(当時桐蔭学園高校)といったメンバーに加え、エースに君臨していたのは、グループリーグ戦3戦全てでマン・オブ・ザ・マッチに選ばれ、大会ベストイレブンにも選出されたMF財前宣之(当時読売クラブユース)。中田氏をして「天才過ぎて近付けなかった」と語るほどの活躍ぶりを見せた。

ボールがサイドを割る度に財前が蹴りに行き、長身FW船越優蔵(当時国見高校、現U-20日本代表監督)目掛け、ロングボールを放り込む戦術が採られたのも自然な流れだろう。

この大会でポジティブな結果が得られれば、FIFAは1994年のW杯アメリカ大会終了後にキックインを正式ルールとして採用する方針だったという。しかし、観戦した日本のファンからも世界からも、このルールに対し否定的な意見が多く、この大会のみでキックインルールはお蔵入りすることになる。

しかし時は経ち、現在のサッカーはロングスロー全盛だ。中にはハーフライン近くからゴール前にボールを投げ入れる“遠投力”を誇る選手もいる。DFの立場からすると、足で蹴り込まれたFKよりも、スローインのボールをクリアする方が難しいという。ボールそのものの勢いが異なるからだ。

逆にキックインが採用されていたとすれば、スローインが戦術に組み込まれることはなく、プレー時間が減るだけではなく、ボールの蹴り合いに終始する単調なスポーツとなってしまったのではないだろうか。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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