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元スペイン代表DFピケ提案「スコアレスドローは勝ち点0」は妙案か暴論か

ジェラール・ピケ 写真:Getty Images

マンチェスター・ユナイテッド(2004-2008)やバルセロナ(2008-2022)で活躍し、2010FIFAワールドカップ(W杯)南アフリカ大会ではスペイン代表DFの要として同国初の優勝に貢献したジェラール・ピケ氏(2022年引退)が、サッカーをより面白くするための提案を行なっている。

現在、ゲーム性溢れるルールで若者から人気を集めている7人制フットボール「キングス・リーグ」のチェアマンを務めるピケ氏は、自身がプロとして長くプレーしてきたサッカーに対し、少なからず改善の余地があると考えているようだ。

その中、同氏によるサッカーのエンタメ色を上げるための「スコアレスドロー(0-0)の試合では勝ち点を与えないルール」の提案について、考察していきたい。

※現行の基本的なルールは、スコアレスドローを含む引き分けの試合では、両チームにそれぞれ勝ち点1。勝利したチームには勝ち点3、敗れたチームには勝ち点0が与えられる。


サッカーボール 写真:Getty Images

ピケ氏「あり得ないのは0-0で終わること」

複数のスペイン現地メディアによると、2月28日に元スペイン代表GKのイケル・カシージャス氏のポッドキャスト番組に出演したピケ氏は、スコアレスドローでは勝ち点を与えないルールを提案し、次のように語った。

「あり得ないのは、スタジアムによるけど100ユーロ、200ユーロ、欧州チャンピオンズリーグ(CL)の試合で300ユーロ以上も支払って、0-0で試合が終わることだ。そこでは何かが起きないといけない」

「何かを変化させないといけない。僕が案を出すならば、もし0-0で試合が終われば、両チームが獲得できる勝ち点をゼロにするね。そうすれば70分も過ぎれば、試合はオープンな展開になるはずだ」

メリット:エキサイティングで攻撃重視に

このスコアレスドローでは勝ち点を与えない提案は、サッカーの試合をもっとエキサイティングで攻撃重視にするための面白いアイデアかも知れない。確かに、サッカーがゴールを奪い合うスポーツである以上、0-0で終わる試合は観客にとって物足りなく感じることもあり得るだろう。特に高いチケット代を払ってスタジアムに来ているファンからすれば、例え贔屓チームが敗れたとしても、ゴールシーンが見たかったというのは自然な心理と言えるのではないだろうか。

メリットとして考えられる点は、サッカー界全体に攻撃的なプレーを求める動機付けになる可能性がある。片や、守備に徹して“引き分け狙い”という戦略が減り、ゴールが生まれる確率が上がるだろう。顧客満足度という物差しで考えれば、妙案ともいえるだろう。

SNS上では活発な意見が飛び交い、ポジティブに捉えている賛成派は「これは名案。スコアレスドローで満足している人が理解できないし、チームが積極的にプレーするようになって面白い試合が増えるはず」と、エンタメ性を重視する立場から支持しているようだ。別のファンも「0-0の試合を見るのは苦痛」と共感を示している。ピケ氏自身が運営するキングス・リーグのようなエンタメ重視のスタイルが若い層に人気なこともあって、この改革案に肯定的な層は確実に存在する。


ジェラール・ピケ氏 写真:Getty Images

デメリット:伝統や戦術的多様性が減る

一方で、デメリットもある。サッカーの魅力の中には、例えスコアレスドローに終わったとしても、攻撃陣と相対する守備陣との緊張感のある駆け引きや戦術の美しさがある。守備が完璧に機能して相手をシャットアウトするのもそのチームの強さでもあり、単に0-0に終わったことで「勝ち点ゼロ」扱いになるのは、守備に特長があるチームやDFにとって不公平に感じるだろう。

また、このルールを採用することによって「どのみち負けてもスコアレスドローでも勝ち点ゼロならば…」と下位チームがリスクを冒し、無謀ともいえる攻撃に出て逆に大敗するケースが増える可能性もある。

反対派の意見で大勢を占めるのは、サッカーの伝統や戦術的多様性を守りたいファンたちだ。「0-0でも最高の試合はある」と意見し、常に上位にいるビッグクラブとの対戦を引き合いに出し、守備の頑張りや戦術の妙を評価した上で、「真のサッカーファンなら0-0でも楽しめる」と、ゴール至上主義に疑問を投げ掛けている。

また別の、強豪クラブのファンは「強敵相手に0-0で耐えた弱小クラブにとって勝ち点1は正当な報酬」と指摘し、ピケ氏の提案に対し、サッカーが持つ競技性が崩れる懸念を挙げている。さらに「両チームが開始直後に1点ずつ入れる茶番になる危険性もある」という皮肉や、「強豪と弱小の差が広がるだけ」という現実的な批判もある。

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名前:寺島武志

趣味:サッカー観戦(Jリーグ、欧州5大リーグ、欧州CL・EL)、映画鑑賞、ドラマ考察、野球観戦(巨人ファン、高校野球、東京六大学野球)、サッカー観戦を伴う旅行、スポーツバー巡り、競馬
好きなチーム:Jリーグでは清水エスパルス、福島ユナイテッドFC、欧州では「銀河系軍団(ロス・ガラクティコス)」と呼ばれた2000-06頃のレアルマドリード、当時37歳のカルロ・アンチェロッティを新監督に迎え、エンリコ・キエーザ、エルナン・クレスポ、リリアン・テュラム、ジャンフランコ・ゾラ、ファビオ・カンナヴァーロ、ジャンルイジ・ブッフォンらを擁した1996-97のパルマ、現在のお気に入りはシャビ・アロンソ率いるバイヤー・レバークーゼン

新卒で、UFO・宇宙人・ネッシー・カッパが1面を飾る某スポーツ新聞社に入社し、約24年在籍。その間、池袋コミュニティ・カレッジ主催の「後藤健生のサッカーライター養成講座」を受講。独立後は、映画・ドラマのレビューサイトなど、数社で執筆。
1993年のクラブ創設時からの清水エスパルスサポーター。1995年2月、サンプドリアvsユベントスを生観戦し、欧州サッカーにもハマる。以降、毎年渡欧し、訪れたスタジアムは50以上。ワールドカップは1998年フランス大会、2002年日韓大会、2018年ロシア大会、2022年カタール大会を現地観戦。2018年、2022年は日本代表のラウンド16敗退を見届け、未だ日本代表がワールドカップで勝った試合をこの目で見たこと無し。
“サッカーは究極のエンタメ”を信条に、清濁併せ吞む気概も持ちつつ、読者の皆様の関心に応える記事をお届けしていきたいと考えております。

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