Jリーグ 浦和レッズ

浦和GKコーチ、ジョアン・ミレッ氏の次世代へ繋ぐべき方法論とは【取材レポート】

浦和レッズ GK牲川歩見 写真:Getty Images

GK牲川歩見「一から学んでみたく移籍を決心」

「今年、浦和レッズに移籍をしました。その決め手となったことは、もちろん浦和レッズと言う大きなチームで活躍したい気持ちと、それ以上に前のシーズンから林選手(元FC東京GK林彰洋)の活躍を知っていて、ジョアンによってかなりプレーが完成されていると感じ、僕自身もジョアンから学んでみたい気持ちがあり決心しました。一から学んで自分がどこまで出来るか表現できるのか、挑戦してどんどんGKとして成熟していきたい気持ちが強くありました」

「最初にジョアンに言われたことは『お前は大丈夫か?』という言葉でしたが、指導の中でゴールを意識しないという新たな学びを得たり、そして『もし仮に失点をしてしまったとしても、それを誰が失点したのかなんて気にしないこと』と言う言葉に、非常に精神面でも安心感を得ることが出来ました」

「指導が進み練習を積んでいく過程で、ジョアンは自分の家族に『すごいGKが来たんだ!』と話題にしてくれるようになり、今シーズン(2022)の終わりにはジョアンから『GKの理論を学んで、すごい成長してくれた』と伝えてもらいました。自分はまだまだと感じていたのですが、その言葉は素直に嬉しく、これからもジョアンの指導下で成長していきたいと感じています」


ジョアン・ミレッ氏(左)林彰洋(右)写真:Getty Images

GK林彰洋「この方法論を15歳で知りたかった」

「ジョアンと約2年間(2017-2019、FC東京)一緒にやってきましたが、自分が納得するまでは数多くの喧嘩をして、困らせ続けたのかなと感じています。最初に言われた『今までのやり方を変えてくれ』というのは、これまでの自分の財産を捨ててくれという様なもの。自己流のGK論も存在するので、ジョアンのGK論と重ね合わせた上で『自分のやり方の何がいけないのか?』と質問をすると、完璧な理論で僕のやり方を崩してきたんです」

「一番衝撃だったことが、大抵僕らGKはゴールのサイズを知らないということ。ゴールは横幅が7m32cmに対して縦が2m44cmなのですが、この情報を知らずしてどのようにしてゴールを守るのか?ということ。何メートル飛んだら良いのかをわかっていないんです。GKの選手は大抵子供の頃からそのポジションをしているので、感覚で育ってきています。なので、例えば好調であれば常にボールを止めることが出来ていても、不調の時には修正方法がわからず止めることが出来なくなる訳なんです」

「ジョアンはその修正方法を理論立てて説明できます。この出来事をきっかけに、ジョアンの方法論を受け入れようとなりました。僕は30歳からジョアンの方法をスタートすることになったんですが、初めて後悔というものを感じました。というのは、この方法論を15歳で知りたかった・・!もしそうだったら多分今頃、日本で一番の選手になれていたんじゃないかなと、心の底から感じています」

「今自分は子供たちと触れ合う機会を増やして、ジョアンの理論を伝授している最中なのですが『今までのやり方を変えろ』と子供達に言ってもやはり独自の理論で反論してきます。その時に『俺は30歳でこの方法でやり方を変えて間に合えたんだから、お前らはあと数十年間と時間があるんだぞ、だから俺以上になれる』と自信を持って言えるんですよね。30歳からの3年間で変わることが出来て、今まで獲得出来なかったJリーグ優秀選手賞(2019)受賞など、本当にこれはジョアンのおかげだと感じています」


イベント中の様子 写真:Molly

未来へ繋ぐために必要なこと

たった1人の人物の経験から産み出された希少で貴重な方法論。その理論の所有者ミレッ氏の頑なな心の扉をオープンにしたキーパーソンとなる人物(倉本氏)によって、未来のサッカー選手へと教えは説かれていく。これらの工程をつくりあげていく事は簡単なものではないだろう。

サッカーという伝統スポーツをこれからも数千年と繋いでいくためには、キーパーソンの存在は非常に重要だ。今を生きる我々が、FIFAワールドカップやプレミアリーグ、チャンピオンズリーグなど素晴らしい大会やリーグの試合を楽しめている背景にも、過去の誰かがキーパーソンとなって、今に繋いでくれたことが挙げられる。

ミレッ氏と倉本氏の最初の出会いから15年以上。ここまで多くの選手達へと教えを繋いでいる状況は理想といえよう。これをお手本に多ジャンルの多くの人々が、次世代へと繋ぐキーパーソンとして行動を起こすきっかけになることにも期待したい。

ページ 2 / 2

名前:Molly Chiba
趣味:自然散策、英国のあれやこれやをひたすら考えること
好きなチーム:トッテナム・ホットスパーFC

東北地方の田園に囲まれ育ちました。英国のフットボール文化や歴史、そして羊飼いやウールなどのファッション産業などに取り憑き、没入している日本人女性です。仕事のモットーは、伝統文化を次世代に繋ぐこと。

筆者記事一覧