Jリーグ サンフレッチェ広島

Dr.TRIBE【試合診断書】 Jリーグ第24節 セレッソ大阪対サンフレッチェ広島

大会:J1リーグ
カード:セレッソ大阪vsサンフレッチェ広島
スコア:0-1
担当医:高橋羽紋
【分析内容】
・マン・オブ・ザ・マッチ(MOTM)
・ザ・ハード・ワーカー(THW)
・モースト・ディサポティング・プレーヤー(MDP)
・両チームの攻撃vs守備
・両チーム監督
・主審


マン・オブ・ザ・マッチ(MOTM):稲垣祥

チーム最多の走行距離11.410km、チーム2位のスプリント回数15回を記録。幅広いエリアをカバーしながらも、FWへのパスコースを的確に封じ、相手の攻撃パターンを限定。ボール保持者へのプレッシングも怠らず守備の仕事を完璧にこなした。攻撃面でも積極的にスペースへ走り込み、ペナルティエリア外から地を這うミドルシュートでゴールを奪取。判断の正確性と技術レベルは白眉だ。

ザ・ハード・ワーカー(THW):青山敏弘

スプリント回数は4回のみだが、走行距離はチーム3位となる10.703kmを記録。90分間継続して細かくポジショニングの修正を続けていた証左だろう。守備時には稲垣と共に中央へのパスコースを封鎖し、攻撃時には素早いサポートでチーム全体を旋回させた。

モースト・ディサポティング・プレーヤー(MDP):杉本健勇

前線で孤立し、空中戦でも存在感を発揮できず。ポジションを下げてボール引き出す動きや、味方の動き出しに連動してスペースへ流れる動きが欲しかった。試合中に堅固な広島守備陣を能動的に崩す工夫が全く見られなかった点は非常に残念だ。


セレッソの攻撃vsサンフレッチェの守備

セレッソ:ビルドアップは3CB+2MF(山口・ソウザ)+清武が関与する形をとった。何度もサイドチェンジからフリーの状態で両サイドのCBへボールが渡ったが、局面を打開するまでに至らず。WB・シャドーFWの距離感とタイミングが悪く、ボールを引き出せず攻撃が停滞している。相手陣内に押し込めても攻撃はスピードアップできなかった。

尹晶煥監督が描いていた青写真を想像してみる。広島の4-4-2のブロックに対して高木、清武、杉本が2ライン間でボールを引き出す、または背後へ抜け出す。前後左右へのポジションチェンジで守備ブロックのバランスを崩すパターン。または逆サイドに素早くサイドチェンジし、大外で数的優位を作るパターン。明確な2つの攻撃の形が見受けられた。

しかし、実際には広島の素早いマークの受け渡しによって、中央のパスコースは封鎖され、裏への抜け出しは皆無。特に司令塔の清武にボールが入ったときに連動して動き出す選手が少なかったことで攻撃が停滞。逆サイドにうまく展開できたとしても、数的優位を十分に活用できず、攻撃はスローダウンした。

サンフレッチェ:DFラインで特筆すべきは2点。杉本健勇に自由を与えなかった点と、マークの受け渡しが完璧に遂行された点だろう。

杉本のポストプレーを活用できなかったことはセレッソにとって痛かった。ボランチ2枚の正確なポジショニングにより、杉本へのパスはほとんどCBが予測出来る範囲内で供給されていた。そのため、野上と水本は後ろ向きでボールを受ける杉本に対して厳しくマーク。ポストプレーをさせず、簡単なロングボールにもうまく対応した。

マークの引き渡しも完璧に遂行されている。佐々木と和田の両SBはWBの松田と丸橋を気にしながらも、清武、高木に厳しく対応。SHFを務める柏と柴崎と連携し、ゾーンを意識しながらもマーク対象の受け渡しはスムーズに行われていた。

もちろんこの試合もDFラインだけでなく、チーム全体が一丸となって守備ブロックを構築。ピッチ上に生まれるスペースを11人でカバーした。全員のハードワークが今季の広島の躍進を支えている。


サンフレッチェの攻撃vsセレッソの守備

サンフレッチェ:5-4-1の守備ブロックを形成するセレッソに対して、和田、稲垣、青山、柏、柴崎の5人が右サイドを中心に中盤で数的優位を創出。特に柏の動きはセレッソを苦しめた。スタートポジションの左サイドから右サイドに流れ、DFとMFの2ライン間でボールを引き出すと、逆サイドに開いたLSB佐々木へパスを供給。決定的な場面を演出している。

プレスが強くかかったら、シンプルにパトリック目掛けて、DFラインの裏へボールを放棄。互角なボールでもキープ、最低でもコーナーにしてくれるという心理的な安心はチームにとって大きいだろう。助っ人の貢献度は計り知れない。

セレッソ:セレッソは基本的に5-4-1の守備ブロックを形成。1点ビハインドとなった状況でも、前線から連動したプレスをかけることはせず、ミドルゾーンで待ち構える形をとっていた。

セレッソが前線からプレスをかけられなかったのはパトリックの存在が大きいはずだ。最終ラインの裏へ送られた単純なロングボールでさえ、スピードに不安を抱える守備陣にとっては脅威だ。パトリックを封じるために、極力ライン裏のスペースを消し、2ライン間のスペースを限定することが最善だと考えたのだろう。22日の天皇杯で120分間の死闘を繰り広げたことも影響しているかもしれない。

しかし、結果的にはこれが広島に主導権を明け渡す要因となってしまった。WBが最終ラインに吸収され、5バックの形になったことで、常に後方でDFが余る状態に。中盤で数的優位を作られたため、ボール保持者へのアプローチが必ず遅れ、最も警戒すべきパトリックへのパスの出し手がフリーの状態であることが多かった。


セレッソ大阪監督:尹晶煥

120分間の死闘を繰り広げた天皇杯の敗戦から中2日での試合となり、マネジメントが極めて難しかったことは考慮すべきだ。同点には追い付けなかったが、試合終盤にパワープレーで決定機を作った点はプラス材料。

ただ、この試合では3-4-2-1のフォーメーションは全く機能しなかった。攻撃の連動性を欠き、プレッシングは機能せず。課題は山積みだ。12連戦が終わり、次節の9月1日まで少し時間が残されている。浦和に対して適切なゲームプランを構築することが求められる。


サンフレッチェ広島監督:城福浩

いつもどおり選手全員がハードワークし、いつもどおりの交代策で、いつもどおり勝利を収めた。いつもどおりのスタイルに見えるが、毎試合ピッチ上では微調整が行われている。選手たちはマークすべき相手を明確に理解して遂行。当たり前のことをピッチ上で実行することは簡単ではないはずだ。

この試合で12連戦が終了。次節までに出来る限り主力選手の疲労を回復させたい。


主審:今村義朗

目立った誤審はなし。選手が不満を表現する場面も少なくうまく試合をコントロールした。試合唯一提示されたソウザへのイエローカードは妥当と言える。