ボールを失わない、確実にパスが出てくることによるチームメートからの信頼感もはっきりと感じられ、相手の裏を狙う意識はイニエスタの投入後に明らかに高まっていた。
特に少ない時間の中でも何度かスルーパスを通すなどウェリントンとは即興のコンビネーションが感じられ、今後の関係に期待を抱かせた。今季序盤はベンチを温める時間の長かったストライカーだが、イニエスタの存在はその威力を倍増させるかもしれない。
まだ味方とのパスが合わない場面も目に付いたが、試合の4日前に来日したばかりでチームメートの特徴を把握する時間がなかったことを考えればそれも当然だろう。そもそも元バルセロナのスターはまだコンディションも上がっておらず、日本の猛暑も含めて悪条件が揃っていた。
戦術的なすり合わせを行う時間もほとんどなかったはずで、そうした状況の中でもチームに明らかな変化を生み出したことは今後に向けて前向きに捉えられるだろう。
コンディションが上がりチームに馴染んでいくにつれて、吉田孝行監督がイニエスタにどのようなタスクを与えていくのかも気になるところだ。湘南戦では比較的高いポジションを保っていたが、より深い位置からボールを託しゲームメイクを任せることは現実的なオプションとして大いに考えられる。
また彼の存在によって、昨年の加入以降しばしばポジションを下げてボール配給の役割もこなしてきたルーカス・ポドルスキは、よりゴールに近い位置でのプレーに重点を置くことができるはずだ。
バルセロナを理想とするクラブ方針のもと、ポゼッションを高めて相手を押し込むサッカーは神戸のスタイルとして定着してきている。しかし、ただボールを保持することとそれを得点そして勝利に結びつけることには大きな差が存在する。
湘南戦の31分間は、ちょうど折り返し地点を迎えた今シーズンの後半戦に向けて、イニエスタがその差を埋める答えとなる可能性を十分に示すものだった。
著者:マリオ・カワタ
ハンガリー生まれドイツ在住のフットボールトライブライター。Twitter:@Mario_GCC
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