【インタビュー】ユース五輪、銀メダル獲得につながった木暮賢一郎監督のチーム作り(後篇)

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第3回ユースオリンピックに出場したU-18女子フットサル日本代表が21日に帰国した。初めてフットサルがオリンピック競技となり、そこで銀メダルを獲得するという偉業を成し遂げた。チームを率いた木暮賢一郎監督は、どのようなプランをもって、大会を戦っていたのか。23日には男子のA代表の欧州遠征に合流するタイトなスケジュールの木暮監督に、帰国直後の空港で話を聞いた。

【前編はコチラ】
【インタビュー】ユース五輪、銀メダル獲得につながった木暮賢一郎監督のチーム作り(前篇)

以下、ユース五輪後の木暮賢一郎監督のコメント
――そしてメダル獲得を決めて挑んだ決勝戦。開始8秒の失点はプランを大きく狂わされました。その試合で前からプレスをかけなかった理由は、先ほどの話のとおりにポルトガルとスペインを相手に守備がハマったからですね?
木暮 最初のゴールに関しては、ポルトガルが狙っている、日本は狙われているなという印象があったので、対策はしていたんです。いま振り返って、自分に何ができたかといえば、キックオフのワンプレーだけ、プレッシャーに行かせてあげればよかったなというのはあります。自分としても、もう一つ踏み込んで、完璧にそこを消すことをしてあげられればよかったなというのは、自分にとって心残りですし、結果論ですが自分のミスかなと思います。

ただ、選手たちにも最後まで「メダルを獲りに行こう」とは言いませんでした。「メダルを取りたいという欲が出るのはわかるよ。でも、ここまでやってきたスタンスは変えないよ」と。なんのために、自分たちは来ているかというところですね。

――なんのために来たんだ、と話していたのですか?
木暮 ずっと言ってきたテーマは3つありました。1つは「この経験をポジティブに楽しむこと。人生において二度とないこういう経験を、思い切り楽しむこと」。2つ目は「自分たちの持っている可能性、何ができて、何ができないかを理解するためにもチャレンジしないといけないということ」。そして3つ目は「当たり前のことを全力でやるんだよ」と。日常生活もそうですし、声を出すとか、最後まであきらめないとか、100%持っているものを出す、100%全力でやりきる。この3つは一緒にどんなことがあってもやろうということを選手たちと約束して、毎試合それを戦術面の話とは別にやっていました。

決勝の前にも、そういう話をしました。「もちろん金メダルか、銀メダルかで言えば、みんな金メダルがいいのは当たり前だよね。でも、決勝戦だから欲を出すのではなく、ずっと言ってきた3つは絶対にやろうね」と。もちろん歴史は変わるし、変えるチャンスもありますが、彼女たちがプレッシャーを感じることが一番かわいそうだと思っていました。彼女たちはこれだけの短期間で、初めて日の丸を背負って、初めて国際舞台に出たんです。そこにポルトガルやスペイン、男子のブラジルが背負っていたような『勝たなければいけない』『メダルを獲らないといけない』『応援してくれる人のためにメダルを獲ろう』というプレッシャーを感じさせることが、一番やってはいけないと思っていました。また彼女たちにそういう責任はなかったので、そういうスタンスでやり続けました。結果論にはなりますが、良いアプローチが、少なからずできたのかなという印象があります。

――細かい戦略的な話をすると決勝までに、ポルトガルはFPフィフォが点を取りまくっていました。あそこまで突出している選手ですし、彼女にマンマークを付けるようなプランは描いていませんでしたか?
木暮 外から見ている方も、もちろん自分自身もいろんな見方はできます。セットプレーとか、個人のアクションであるとか、戦術・戦略とか、非常に多くの情報を分散しながら積み重ねて伝えてきた中で、一番自分が避けたかったこと、一番怖かったことは、僕の方も欲を出して、選手たちがキャパオーバーになってしまうことです。それで自分たちの良さが出せなくなるのは怖いなと。当然、勝つための戦略で言えば、自分の経験から言えば、いろいろな可能性を想定して「こうなったらこういうことができるよ」と、それを用意することは可能です。でも、その容量と彼女たちの容量、やれることやれないことがマッチしないことが一番良くありませんでした。どこまでチャレンジできるかは、やってみないといけませんし、そこは一つの決断でしたけどね。

――なるほど。このチームの活動期間では、そういう細かなパターンを試す時間は足りませんでしたね。
木暮 結果論ですが、今言われたような(マンマークを付けるという)奇をてらったことを、あの舞台でやるかどうか。選択肢として自分の頭の中にもあったか、なかったかで言えば、当然ありました。でも、それを今やることが吉と出るのか、凶と出るのか。それを決断することも必要でしたし、自分が選手たちと約束してきたことは、自分も守らないといけません。

――「欲を出すのではなく、やってきたことを出そう」ということですね。
木暮 そうですね。それありきで考えた決勝戦でしたし、マンツーマンをやるべきだったかは結果論ですよね。そこで何か違うことをやってハマって勝っていたら結果論で、素晴らしい采配だったとなったかもしれません。それは誰にもわかりません。ただ、本当に言えるのは、選手たちがよくやってくれたということです。

――点差を離されても、最後まで本当にあきらめずに戦い続けて1点返しましたね。
木暮 この大会にあたって約束したこと、精神的に自分たちがとるべき姿勢は、最後まで貫いてくれました。そういう彼女たちを誇りに思いますし、「決勝で1-4だったね」とか、「ポルトガル強かったね」とか、恥ずかしいとか、下を向くとか、そういうことは思ってほしくないですね。

――今大会に出場した選手たちは今後、フットサルに進む選手、サッカーに進む選手、それぞれいると思います。今後の彼女たちに期待することはどんなことですか?
木暮 二つあると思います。一つはこうした誰もができない経験をしたことを、彼女たちの人生にプラスにしてほしい。それは競技面だけではなくて、人間としても。またこの先に続くいろいろな場面で、自分の人生の役に立ててほしいなと。そして、少しでもこの経験を伝えていってほしいです。

二つ目は純粋に競技として。彼女たちにもはっきり言ったのは「次にみんなとこういった形で会うのは、A代表しかないよ」ということです。もちろんサッカーであれ、フットサルであれ、続けている子は応援するでしょうし、試合も見ると思います。続けていなくても、自分にとっては娘くらいの世代ですが、ともに戦い、非常に濃い時間を過ごしましたので、応援しているところはあります。ただ競技で言うと、自分は今、女子のA代表の監督をやっています。やっている以上、「次にこうした形で会うときは、A代表に来たときだよ。キミたちが頑張って、努力をして、A代表に呼びたいと思う選手になってほしい。そこを目指してもらって、そこでも会えることを願っています」と。その2つですね。あとは感謝とか、ありますけれどね。

――現地でのインタビューの際、今大会で最も印象に残っていることを聞かれて「彼女たちの笑顔」とおっしゃっていましたね。
木暮 出会った日から最後まで、彼女たちは常に良い笑顔で、前向きにやってくれました。自分も男子の選手としてやってきて、クラブの監督も務め、今は代表のコーチもやっていますが、17歳前後の子たちがそうして取り組めることは、男子も、Fリーグの選手たちも、見習わないといけません。彼女たちから見習うべきもの、何か忘れてしまっている純粋さみたいなものがあるなと、自分自身も思い出しましたし、同じような姿勢で学んでほしい。その源になるのはポジティブに笑顔で、フットサルがうまくなりたいとか、この瞬間を楽しみたいとか、そういう気持ちです。実際に選手村では、僕と彼女たちしか過ごしていません。ほかのスタッフは違うホテルだったので、ずっと朝も昼も夜も練習も一緒に過ごす中で、そこは印象的でしたね。