
レアル・ソシエダからのステップアップ移籍が取り沙汰されている日本代表MF久保建英。具体的なクラブ名が報じられては消える状態で、なかなか前に進んでいる様子は見えない。
そんな中、6月6日の『報道ステーション』(テレビ朝日系)に出演した久保は、内田篤人氏との対談であたかも“移籍前提”のような言葉を並べた。
「大前提として2桁得点は目指していく。あとはトップオブトップの選手と戦える結果、内容ともに」と語る久保に、「それは移籍?」と内田氏がド直球質問。久保は明言こそしなかったが、「僕がサッカーやっている理由は、vs 強い相手 with 強い相手みたいな感じでやっているので、できるだけステップアップできるチャンスがあれば、できるだけ強い相手とやりたいなと。それこそ僕の夢の1つは、(UEFA)チャンピオンズリーグ優勝したいとも思っているので、チームを引っ張っていきたい思いもあります。チャンピオンズリーグにまた出たい思いもある」と語った。
もちろん契約がある以上、久保本人の一存で好きなクラブに行けるわけではない。久保は2024年2月にソシエダとの契約を2029年まで延長した身であり、同時に年俸も推定200万ユーロ(約3億2,000万円)から推定250万ユーロ(約4億円)に引き上げられた。ただでさえイマノル・アルグアシル監督が退任し、スペイン代表MFマルティン・スビメンディやMFブライス・メンデスの退団が決定的な中、久保までいなくなってはチーム崩壊の危機に晒されるのは明らかだ。
加えて、久保のさらなるステップアップを阻む壁の1つとして、「保有権」の存在が指摘されている。ここでは、保有権の仕組みとその影響、そして久保の保有権の内訳について検証する。

久保の保有権の複雑な背景
サッカー選手の「保有権」とは、選手の契約や移籍に関する権利をどのクラブが持つかを示す概念だ。これは、選手がどのクラブと契約しているか、またその選手が他のクラブに移籍する際にどのような条件が適用されるかを決定する重要な要素でもある。保有権には以下のような形がある。
- 完全保有権:1つのクラブが選手の契約を100%保有し、移籍に関するすべての決定権を持つ状態。
- 共有保有権:複数のクラブが選手の権利を一定の割合で共有する形態。例えば、あるクラブが50%、別のクラブが50%の権利を持つ場合、移籍金の分配や買い戻し条項などが契約に含まれることが一般的。
- レンタル契約:選手の保有権は元のクラブが保持しつつ、一定期間他のクラブに貸し出す形態。この場合、元のクラブが将来的な移籍の主導権を握る。
- 買い戻し条項:元のクラブが選手を他クラブに売却した後、一定の条件で選手を再獲得できる権利。
保有権は、移籍金(契約解除金)の設定、選手の市場価値、さらにはクラブ間の交渉戦略に大きく影響する。特に有望若手選手の場合、将来の移籍金上昇を見越して複数のクラブが権利を共有するケースが多い。
久保の保有権に関しては、彼のキャリアの特殊性と移籍の経緯から、複雑な構造が背景にある。
2022年7月、久保はレアル・マドリードからソシエダへ完全移籍。この際、ソシエダは移籍金650万ユーロ(約9億円)を支払い、久保の保有権を100%取得した。ただし、完全移籍といっても契約には重要な条件が付随している。具体的には、マドリードが将来的な移籍金の50%を受け取る権利を保持しているという点だ。
ソシエダは久保の移籍金を6,000万ユーロ(約99億円)に設定している。ソシエダから他クラブに移籍する場合、ソシエダが得るキャピタルゲイン(移籍金から当初の購入価格を差し引いた利益)の50%をマドリードに支払うというものだ。
例えば、ソシエダが久保を満額の6,000万ユーロで売却した場合、移籍金から当初の600万ユーロを差し引いた5,400万ユーロ(5,400万ユーロ、約89億円)がキャピタルゲインとなり、その50%(2,700万ユーロ、約44.5億円)がマドリードに支払われる。
マドリードは、久保の保有権そのものを手放しているものの、将来的な利益を確保するための権利を保持している。具体的にはキャピタルゲインの50%受け取り権に加え、買い戻し条項(マドリードが久保を再獲得する権利)を保持している可能性が高い。この条項は公式には明かされていないが、欧州のビッグクラブが若手選手を放出する際にこうした条項を設けるのは一般的なことだ。
この条項により、マドリードは久保のステップアップ移籍による経済的な恩恵を受けつつ、彼の成長を間接的に見守る立場にある。しかし同時に久保の移籍話を複雑にしている側面もある。一方、久保の移籍先として、マドリードの天敵であるバルセロナやアトレティコ・マドリードの名前も挙がったが、マドリードはこれに口を挟む権利はない。

保有権の構造による高額な移籍金
久保の移籍をめぐる「壁」には、上述の保有権の構造とそれに付随する条件が大きく影響する。保有権の構造による高額な移籍金が、久保の獲得を狙うクラブにとって最初の障壁となる。
ソシエダが設定した久保の移籍金6,000万ユーロ。ビッグクラブにとっては手が届く範囲だが、中堅クラブにとっては大きなハードルだ。今オフ、トッテナム・ホットスパーが5,000万ユーロ(約82.5億円)のオファーを提示したものの、ソシエダはこれを拒否。移籍金の満額支払いを要求したことで破談となり、アーセナルやリバプールも手を引いた。
ソシエダのアペリバイ会長は久保の移籍金について、1ユーロも値切りに応じる気はないのだろう。バイエルン・ミュンヘンも獲得に前向きな姿勢を見せているが、用意していると報じられた移籍金は3,000万ユーロから4,000万ユーロ。これでは交渉のテーブルにも付けないのではないだろうか。
つまり、マドリードが移籍金の50%を受け取る権利を持っていることが、移籍交渉を困難にしている。ソシエダは、久保を売却する際に得られる金額が半減するため、より高額なオファーを求める。当然の主張だが、この構造は、買い手クラブにとってコストを押し上げる要因となり、交渉の難易度を高めている。
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