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本田圭佑が代表監督就任。発展途上カンボジアサッカーの現在地は?

著者:高橋羽紋

メルボルン・ビクトリーに所属するMF本田圭佑が12日、滞在中のカンボジアで記者会見を実施。実質的なカンボジア代表監督とGM(ゼネラルマネージャー)に就任することを発表した。

「カンボジアのサッカーが目指すべきスタイルを作り上げること」、「カンボジアのPR活動」を目標にカンボジアサッカーの強化に取り組んでいくようだ。

日本であまり馴染みのないカンボジアサッカーは今どのような状況なのかご紹介したい。


サッカー人気(するスポーツ)

サッカーはバレーボールと並び2大スポーツとして親しまれている。都市部のみならず農村部でもプレーされており人気は極めて高い。経済格差が広がっている影響から、農村部では整備されたグラウンド、ゴール、正規のボールなどハード面が不足している地域も多いが、ストリートサッカーは全国的に楽しまれている。


サッカー人気(観るスポーツ)

カンボジア国内で「観る」スポーツとして発展しているのはサッカーのみだ。カンボジア人史上初のJリーガーであるチャン・ワタナカはテレビCMに出演するなど国民的スーパースターとして母国で高い人気を誇っている。また、プレミアリーグの試合は毎試合テレビ中継されており、サッカーのユニフォームを普段着として着用する国民も多い。


カンボジア代表の成績

FIFAランキング:166位

プロリーグ設立から日が浅いこともあり、国際大会ではあまり良い結果を残せていない。東南アジアサッカー選手権の通算成績も11チーム中9位と低い水準となっていることがその証左だ。

近年は日本サッカー協会から派遣された技術委員長の小原一典氏や審判ダイレクターの唐木田徹氏などの尽力により少しずつ代表のレベルアップが図られているが、国際試合の結果は好ましくない。

2017年は親善試合で3戦3敗、2019AFCアジアカップ出場をかけた3次予選では4戦1勝3敗と惨敗。計7試合で1勝6敗の結果を残せなかった。

成績低迷によって少しずつ代表人気も減少してきており、本田圭佑にはカンボジアサッカー界に漂う閉塞感を打破することが期待されている。


カンボジア代表の人気

2015年、2016年は首都プノンペンのオリンピック・スタジアム(写真)で行われる代表戦で1試合7万人以上を動員。サッカー人気はピークを迎えていた。

しかし、昨年は代表の成績低迷によって人気がやや下降した印象だ。それでも2017年の代表戦は平均3〜4万人を動員し、AFF U-16ユース選手権でも5万人以上を収容。首都プノンペンで代表戦は「イベント」としてしっかり認知されている。


カンボジアリーグ

<基本情報>
参戦クラブ:12チーム
開催時期:3月〜9月
ホーム&アウェイ

Cリーグ(カンボジアリーグ)には多くの日本人が参画している。日系企業のアンコール・タイガー、本田圭佑が所有するソルティーロ・アンコールに加え、プノンペン・クラウンのGM(ゼネラルマネージャー)も日本人の池田憲昭氏が務めている。

カンボジア国防軍(ナショナルディフェンス)や警察(ナショナルポリス)などの国家機関や、大学(アジアヨーロッパ大学)もプロチームを保有している。

全12チーム中8チームが首都プノンペンに本拠地を置いていることも特徴の一つだ。アンコールタイガーとソルティーロ・アンコールは世界遺産アンコールワット(写真)があるシェムリアップ州に本拠地を構えている。


カンボジアリーグの人気

カンボジア代表と比較するとクラブチーム(Cリーグ)の人気は乏しい。ボーウング・ケット・ラバーフィールドなどは観客席が埋まるほどの人気を得ているというが、他チームの試合は観客が100人程度であることも多い。チケット収入やグッズ収入のみで経営は難しい状況にある。


カンボジア代表の強化

東南アジア各国のリーグと比較するとCリーグのレベルは低い。東南アジアクラブ選手権でも結果を残せていないことからも明らかだ。カンボジアサッカー強化のためには、選手個々がより高いレベルのリーグで研鑽を積み、チームとしてレベルアップすることが必要だろう。

これまでカンボジア人選手が海外でプレーする機会は少なかったが、チャン・ワタナカがJ3の藤枝MYFCへ期限付き移籍するなど少しずつ国外移籍の事例も増えている。2018年シーズンよりタイやマレーシアなど東南アジアの中でも高いレベルを誇るリーグがASEAN枠を導入したこともあり、今後国外挑戦への動きが増加することが期待されている。


カンボジア代表 当面の目標

2023年にカンボジアで東南アジア競技大会(SEA Games)が開催されることが決定。同大会での躍進を目指してカンボジアサッカーの強化が急ピッチで進められている。

各州へサッカーの指導者が派遣され、U-14、U-16を中心とした全国大会の開催が実現。若手選手の育成制度が徐々に整備され始めている。また、新しいサッカー専用スタジアム建設も数多く進められており、新たな取り組みが加速している状況だ。


グラスルーツでの貢献

カンボジアサッカー協会のサポートは小学生年代の強化・育成まで行き届いていないのが現状だ。本田圭佑のマネジメント事務所『HONDA ESTILO』はサッカースクールをカンボジアの2箇所で開講。グラスルーツの強化のみならず、『サッカーを通して子供たちに夢を持つことの大切さを伝えたい』というテーマで子どもたちの教育問題にも積極的に関わっている。


本田圭佑に期待される役割

本田圭佑はカンボジアで主に「カンボジアのサッカーが目指すべきスタイルを作り上げること」、「カンボジアのPR活動」の2つを行っていくようだ。

前者はカンボジアサッカーの強化、東南アジアサッカーの強化に繋がる試みになるだろう。元日本代表監督の岡田武史氏がオーナーを務めるFC今治のような前衛的な取り組みを国家レベルで行うことが出来るはずだ。

後者はカンボジア政府から必要とされている要素でもある。カンボジア観光省の最新の発表によれば、2017年におけるカンボジアの観光業の収益は13.3%増の36億3000万ドル。外国人旅行者数は560万人で、前年比11.8%増加している。慢性的な赤字が続く同国の貿易収支状況を考えると、貴重な外貨獲得手段である観光業の重要性は高まる一方だ。世界的な認知度を誇る本田圭佑がカンボジアを国外へアピールすることは国全体にとっても大きなメリットとなるはずだ。