
J2リーグでは、2026/27シーズン開幕わずか1か月で早くも監督交代が起きた。9月9日、J2で17位のいわきFCが、田村雄三監督から辞任の申し出を受け、双方合意のもと9月7日付で契約を解除したと発表。後任には、同クラブでスポーツディビジョンダイレクター(SD)を務めていた田坂和昭氏が就任する。2016年の強化・スカウト本部長就任以来、監督、SD、ゼネラルマネージャー(GM)としてクラブを支え続けてきた田村監督の突然の退任は、チーム内やサポーターに少なからず動揺を与えている。
これがプロサッカーの厳しさとも言えるが、サッカー界では監督交代によって低迷するチームの流れを短期間で変える例が多い。いわゆる「解任ブースト」と呼ばれる現象だ。しかし、ドイツ・ミュンスター大学の物理学者アンドレアス・ホイヤー教授の調査(過去50シーズンのブンデスリーガにおける約150件の監督交代前後の成績の統計に基づいた効果の検証)によると、効果なしという結果が出ている。
欧州や南米ほどではないにせよ、日本の他スポーツと比較してみると、NPB(日本プロ野球)では2~3年契約が一般的で、「休養」という名の事実上の解任が起きれば、それは”事件”とされる。ジャパンラグビーリーグワンでも複数年契約に基づいた長期政権が基本で、以前は監督交代が頻繁に行われていたプロバスケットボールBリーグでも、2026/27シーズンから成績に基づいた昇降格が廃止されるルール改正が行われた。これにより、短期間での監督更迭は今後減ると見られている。
それでもJリーグで監督交代が後を絶たないのは、昇降格制度がもたらす重圧の大きさが一因だろう。特にJ3で最下位に沈むと、JFL降格という名の”Jリーグ追放”が待っており、クラブの存廃にも関わってくる。一方で、残留争いの最中で就任し、結果を残した監督が「神采配」と評価されることもある。ここでは、途中就任後にチームの雰囲気や成績を大きく改善させた5人の監督を取り上げ、就任経緯と就任後の具体的な変化を追いながら、短期的な残留や連勝にとどまらず、その後のチーム再建に繋がったケースも振り返る。

宮本恒靖監督(ガンバ大阪/2018-2021)
J1初優勝を知るクラブのレジェンドが立て直しに成功
2018年7月23日、ガンバ大阪は成績不振を理由にレヴィー・クルピ監督との契約を解除し、当時、J3を戦っていたG大阪U-23監督を務めていた宮本恒靖監督(現日本サッカー協会会長)をトップチームの監督に任命した。
第17節終了時点で16位、直近5試合未勝利と低迷していたことで、当時はユース時代からG大阪で育った「クラブの顔」に火中の栗を拾わせることへの疑問の声も上がった。
就任直後は勝ち切れない試合が続いたが、国際Aマッチウィークを挟んだことで流れが変わり、クラブ記録タイの9連勝を含む巻き返しでJ1残留を果たした。就任後に積み上げた勝ち点はクルピ体制の倍以上(勝ち点33)にも達した。ユース選手の積極起用が起爆剤となり、短期間での変化を後押しした一因と見られている。
2019シーズンはJ1で7位、2020シーズンはJ1で2位と天皇杯準優勝まで押し上げたが、2021シーズンの序盤でつまずき、1勝5敗4引き分けの成績で10節終了時点で解任された(後任は同じくG大阪OBの松波正信監督)。
宮本監督は現役時代、主将として2005シーズンのJ1初優勝に貢献し、欧州移籍も経験(レッドブル・ザルツブルク/2006-2009)、帰国後はヴィッセル神戸(2009-2011)に移籍したが、G大阪が最も長く在籍したクラブだった。指導者としては2013年、元Jリーガーとして初めて「FIFAマスター(FIFA大学院)」を卒業。当時はまだJFA Proライセンス(当時S級コーチライセンス)を取得しておらず、欧州での指導者ライセンス取得も視野に入れていたが、最終的には2016年にS級コーチライセンスを取得し、指導者としての道を歩み始めた。

渋谷洋樹監督(大宮アルディージャ/2014-2017)
降格後のチーム再建とJ2優勝、さらにJ1での飛躍
現在、J2ヴァンフォーレ甲府で采配を振るっている渋谷洋樹監督。2014年8月に、当時J1の大宮アルディージャの大熊清監督の退任に伴い、コーチから監督に昇格した。最終的に2014シーズンは16位でJ2降格したが、翌2015シーズンも契約を延長し、采配を振るった。
2015シーズンはJ2で優勝し、1年でのJ1復帰を果たした。序盤こそもたついたものの着実に勝ち点を積み、終盤の昇格争いを制した。クラブ“初タイトル”となるJ2優勝だった。2016シーズンにはJ1で5位とクラブ史上最高順位に導いた。
その後の渋谷監督は、ロアッソ熊本(2018-2019)、ジュビロ磐田(2022)でも監督を務め、コーチ業も含めれば常に指導の現場に立ち続けており、現在の甲府監督に至っている。
渋谷監督は大宮の下部組織指導経験が長く、クラブを熟知した存在だった。途中就任後の“お助けマン”で終わらず、降格からの再建を結果に結びつけた点が評価されている。特徴的なのは、育成とトップチームの両方を深く経験している点。選手育成を土台にしながら、後にトップチーム監督として経験にフィードバックしている“隠れた名将”だ。
コメントランキング