「『落ちなくていい』と監督から言われた」
試合後ミックスゾーンにて筆者の取材に応じた田中は、前述の立ち位置の意図を明かしてくれている。湘南の山口智監督から求められているプレーとは違ったようだが、田中の咄嗟の判断が2点目に繋がったのは確かだ。
ー湘南の2点目について伺います。山田康太選手が田中選手に張り付いていましたが、あの場面で田中選手が最終ラインに降りたことで、G大阪のハイプレスに迷いが生まれたように見受けられました。何を感じてあの立ち位置をとったのでしょうか。
「ずっとマンマークされていたので、どうにかボールを受けないとと思い、(最終ラインに)落ちてみました。そうしたら右サイドで(攻撃を)うまく展開できましたね。ただ、あの後監督から『落ちなくていい。マンマークされたままでいいから、良いポジションをとり続けなさい』と言われました」
ー良いポジションとは、たとえば相手チームが2トップであれば、その後ろということでしょうか。先日の柏レイソル戦(8月17日J1第27節)では田中選手が相手2トップの背後、且つ2人の中間にあたる位置に立っていましたよね。これはご自身のなかで意識していますか。
「そうですね。自分が2トップの後ろに立つことで相手が迷うので。2トップが自分のところに来れば(マークに付けば)味方のセンターバックがフリーになりますし、2トップがセンターバックのところへ行けば、自分(田中自身)が空く。そういう立ち位置を意識しています」
ー相手チームの前線が田中選手に引きつけられると、(湘南の)インサイドハーフが降りてボールを受けやすいですよね。この点はいかがでしょうか。
「そうですね。自分のところに選手が密集すれば、周りが空いてきます。周り(の選手)をうまく活かしながら、今後も(良い)立ち位置を続けたいなと思います」
改善すべきはセットプレーの守備
この試合で浮き彫りになった湘南の課題は、脆弱なセットプレー(※1)の守備。前半41分、G大阪が湘南の陣地でフリーキックを得ると、MF鈴木徳真のキックにヘディングで合わせたDF福岡がゴールゲット。2-2の同点で迎えた後半31分には、鈴木徳真のコーナーキックに中谷がヘディングで合わせ、決勝ゴールを挙げている。湘南は一度勝ち越しながら、セットプレーでの2失点でみすみす勝利を逃した。
ミックスゾーンにおける筆者とのやり取りのなかで、田中は自軍のセットプレーの守備に言及している。今の守備のやり方は変えずに、その練度を高めていく方針のようだ。
ー湘南のセットプレーの守備について伺います。相手選手がゾーンディフェンス(※2)の外側から助走をつけてゴール前へ飛び込んできたときに、守備の脆さを感じます。田中選手はどう感じていますか。
「セットプレーでの失点が一番もったいないです。ただ、ゾーンで守るのが(湘南の今の)やり方なので仕方がないです。自分のエリア(担当エリア)に来たボールを跳ね返せないと、失点に繋がってしまうと思います」
ー今の守備のやり方は変えずに、それを磨き上げるという方針でしょうか。
「そうですね。もっとボールにタイトに行ければ失点は減ると思います」
湘南が相手セットプレー時に敷いているゾーンディフェンスのデメリットは、この守備網の外側からゴール前へ走り込んでくる相手選手の捕捉が難しいこと。ゴール前で立ち止まった状態から守備をする湘南の選手と、勢いをつけてゴール前へ侵入してくる相手選手とでは、競り合いにおいて後者に分がある。今回のG大阪戦3失点目のシーンでも、湘南はゾーンディフェンスの外側からゴール前へ侵入してくる中谷を捕まえられなかった。
今季J1リーグで湘南はセットプレーから多くの失点を喫しており、これが勝ち点取りこぼしの一因となっている。セットプレーの守備の練度向上が急務だ。
(※1)コーナーキックやフリーキックなど、試合再開に際しボールをセットして行うプレーのこと。(※2)各選手が自分の担当区域に入ってきた相手選手をマークする守備戦術。
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