2004/05シーズンに、リーグ・アンのル・アーヴルでキャリアをスタートさせたラサナ・ディアラ氏。チェルシー(2005-2007)、アーセナル(2007-2008)、レアル・マドリード(2009-2012)といったメガクラブにも所属し、2018/19シーズンに所属したパリ・サンジェルマンを最後に33歳で引退。フランス代表としても34キャップを記録している名ボランチで、同国のレジェンドであるクロード・マケレレ氏(2011年引退)の後継者として将来を嘱望されていた。
ディアラ氏は既にスパイクを脱いだが、2014年にロシア・プレミアリーグのロコモティフ・モスクワとの契約解除を巡るトラブルによって、ベルギーの古豪シャルルロワへの移籍が破断になったことについて、FIFA(国際サッカー連盟)を訴えていた。
その判決が今年10月に下され(「ディアラ判決」)今後の移籍ルールの見直しが図られている。考えられる日本人選手への影響を含む詳細を見ていこう。
「ディアラ判決」とは
その内容を説明すると、2014年、ロコモティフが一方的に年俸を減額し、怒ったディアラ氏が練習参加を拒否。2013年に4年契約を結んだものの、1年後の2014年に契約違反を理由に解雇された。
しかし、ディアラ氏は、新天地を探そうにもFIFAが定める移籍ルール「RSTP(Regulations on the Status and Transfer of Players:選手の地位と移籍に関する規則)」によって、契約違反を犯したのは練習を無断欠席したディアラ氏側であり、移籍が成立したとしても、ディアラ氏本人若しくは移籍先のクラブが契約解除金(いわゆる「移籍金」)を支払う義務が生じるという現実に直面する。
FIFAとCAS(スポーツ仲裁裁判所)は、ロコモティフ側の主張を支持。ディアラ氏は1,000万ユーロ(当時のレートで約12億円)もの罰金処分を受けた。さらにシャルルロワから興味を示されていたものの、ロコモティフおよびFIFAが移籍証明書の発行を拒否して移籍は叶わず、2015年にようやくオリンピック・マルセイユ入りするまで、約1年間にもわたる浪人生活を強いられた。
ディアラ氏はFIFAが定めた移籍ルールが、EU(欧州連合)法が定める「職業選択の自由」に反していると主張し、欧州司法裁判所(ECJ)に提訴。そして先頃、ECJはFIFAに損害賠償請求を求めたディアラ氏を支持する判決を下したのである。
移籍マーケットに大きな影響を及ぼす理由
FIFAのルールでは、フリーエージェントとなった選手と契約するクラブは、正当な理由がなく契約が解除されていた場合でも、前所属チームに移籍金を支払う責任を負うとされていた。
しかしECJは、ロコモティフおよびFIFAが国際移籍証明書の提出を拒否したことについて、ディアラ氏が貴重な選手生活を無為に過ごさざるを得なくなっただけではなく、「FIFAの規則が新たなクラブに移籍したいと望む選手の自由な移籍を妨げている」と断じた。
ディアラ氏自身は既に引退しているため、これによって損害賠償以上の大きな何かを得たワケではない。ところがECJのこの判断が、今後の欧州での移籍マーケットに大きな影響を及ぼすのではないかと言われている。
その理由として、前述したFIFAの「選手の地位と移籍に関する規則(RSTP)」や、CASの判断がEU法に反していたことが明らかにされただけでなく、移籍金の算出根拠にまで踏み込んでいる点が挙げられる。
10年にもわたる同裁判の中で、ベルギーの司法は国内法に基づき「移籍金=残りの年俸額」という見解を示しているのだ(契約残り期間の年俸額を超える金額を請求することは違反となる)。さらに、場合によっては、選手が一方的に契約破棄をしたとしても、移籍金ゼロで移籍することが可能になると指摘されている。
仮にこの考え方がEU全体のスタンダードとなれば、まずは移籍金の減額により、移籍金の設定が1億ユーロ(約166億円)を超えることも珍しくなくなった欧州のサッカー界において“価格破壊”が起き、超一流選手の流動化または契約期間の長期化が予想される。また「選手を育てて売る」ことで経営を成り立たたせているクラブにとっては死活問題となる。
FIFAはこの判決を受けて、移籍ルールの見直しを検討し、各国リーグやクラブ、選手会などといった関係者との折衝を始めるという。
近年、日本人選手の欧州移籍の低年齢化が進み、10代で海を渡る選手も多い。しかし、移籍ルールの見直しが図られている中、”移籍金ビジネス”が成り立たなくなれば、欧州クラブにとって無名ではあるが将来有望な日本人選手を“転売目的”で獲得するメリットが薄くなることも予想されるのだ。
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