日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)2023/24の第8節が、3月2日と3日に各地で行われた。同リーグ首位に立っているINAC神戸レオネッサと2位三菱重工浦和レッズレディースが、3日に浦和駒場スタジアムで対戦。1-1の引き分けに終わり、両者の勝ち点差は1のままとなっている(INAC18、浦和17)。
2021/22シーズンのWEリーグ覇者INACと、昨2022/23シーズンの同リーグチャンピオン浦和がこの日もハイレベルな戦いを披露。男子の欧州サッカーやJリーグに匹敵する戦術的な駆け引きも見られた。
ここでは今回の首位攻防戦を振り返るとともに、現地取材で得た浦和MF陣(伊藤美紀、遠藤優、栗島朱里)やINACを率いるジョルディ・フェロン監督の試合後コメントを紹介。そのうえで両チームの戦術的特色を解説していく。
INACがコーナーキックを活かす
前半4分、基本布陣[4-2-3-1]の浦和FW清家貴子(右サイドハーフ)のクロスが不発に終わり、ボールが相手GK山下杏也加に渡る。山下が素早く投げたボールをINACのDF守屋都弥が受け、タッチライン際から前線へ縦パスを供給。このボールが浦和MF水谷有希とDF長嶋玲奈の間を走ったINACのFW田中美南に渡ると、同選手が惜しいシュートを放った。
このシュートが長嶋に当たってゴールラインを割り、INACがコーナーキックを獲得。MF北川ひかるによるキックのこぼれ球をDF竹重杏歌理が押し込み、INACに先制点をもたらした。
守屋のパスが先制ゴールの要因に
この一連の場面で秀逸だったのが、GK山下による素早いスローと守屋が繰り出した縦パス。このシーンでは浦和が右サイド(INACから見て左サイド)に人を集めて攻めていたため、右ウイングバック守屋のサイドががら空きに。ここへ山下が素早くボールを投げ、守屋も浦和MF伊藤美紀のプレスを浴びる前にFW田中へパスを出したのが功を奏した。
伊藤「都弥との距離が遠くなって……」
試合後に筆者の取材に応じてくれたのが、当該場面で守屋と対峙した伊藤。チーム全体で守備の約束事を再構築・共有する必要性を語った。
ーINACのビルドアップ(GKや最終ラインを起点とするパス回し)を止めるべく、チーム全体としてどんな守備を心がけましたか。
「INACはパスを繋ぎたいチームだと思います。あまり行きすぎると(前線の選手からプレスを仕掛けると)逆にパスを繋がれてしまうので、自分たちの陣地に引き込む守備(撤退守備)を心がけました。INACはFWが強みで、そこへ(シンプルにボールを)蹴ってくる感じだったので、そこを止めようと思っていました」
ー失点を喫したコーナーキックの直前に、守屋選手から田中美南選手へのパスが通りました。あのとき守屋選手と対峙したのが伊藤選手でしたね。守屋選手へより鋭く寄せるのは難しかったですか。
「あのときは(浦和の選手たちが)逆サイドに寄っていて、(GK山下のスローで)サイドを変えられてしまったので、都弥との距離が遠くなって寄せきれませんでした。寄せられないのであれば後ろへ下がって、(守屋が前に)出てくるのを待ち構えたほうが良かったのかなと思ったんですけど、距離が遠かったぶん(守り方が)中途半端になった印象はあります。この次からそこをフリーにしないよう意識しました」
ー伊藤選手が縦パスのコースを切る(塞ぐ)のも難しい状況でしたか。
「貴子くらい足が速くないと(厳しい)(笑)。そのくらい(守屋との)距離は遠かったですね」
ーあの場面を振り返ると、(中盤や自陣で)構える守備をしたほうが良かったという印象ですか。
「自分たちの攻撃が終わって、(逆サイドや)中央に味方が集まっていたので、そのときにどうするのか(どう守るのか)。これをチームで共有したいですね。(浦和の左サイドバック水谷)有希が下がらずに都弥のところへ出ていくのも方法としてありますし。自分(伊藤)が中に立っていて、相手にあのポジション(タッチライン際)をとられたときにどうするのか。これが今後の課題だと思います」
伊藤のコメントに付け加えるならば、今後はボール保持者の顔が上がったときには最終ラインを下げ、この背後へパスを通されないことに重きを置きたいところ。浦和の最終ラインコントロールの僅かな緩みを、守屋と田中に突かれる形となった。
浦和を救った栗島
キックオフ直後からサイド攻撃が停滞気味で、INACに先制された浦和を救ったのが、基本布陣[4-2-3-1]のボランチとして先発したMF栗島朱里だ。
WEリーグ屈指の快足MF遠藤優(右サイドバック)がなかなか攻め上がれない状況を受け、前半途中から栗島が味方センターバックとサイドバック間(DF石川璃音と遠藤の間)へ降りるように。栗島が石川と遠藤の中継役を担ったことで右サイドへ円滑にパスを送れるようになり、遠藤の攻撃性が遺憾なく発揮された。
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