選手獲得が「人身売買」にあたるという考え
EU法に限らず米国でも、法律上では選手は「商品」ではなく「クラブの資産」とみなされている。
日本の野球選手がMLB(メジャーリーグベースボール)に移籍する際に用いられる「ポスティングシステム」も、2017年に改定された。それにより日本球団に入る譲渡金の割合が増えたことで、同システムでのMLB挑戦を認める球団が増え、今や多くの日本人プレーヤーが米国の土を踏んでいる。
しかし、MLB選手会を中心に、米球界では未だ“ポスティング不要論”が根強いのが現状だ。その根底には、選手獲得のために大金を費やすことは「人身売買」にあたるという考えがある。
それは欧州サッカー界でも同じで、青天井に吊り上がっていく一部選手の移籍金に対しても、法的に見て同様の見解がなされている。
「ボスマン判決」の反作用と比較
1995年、ベルギーリーグ2部のRFCリエージュに所属していた凡庸な選手に過ぎなかったジャン=マルク・ボスマン氏(同年引退)が、UEFA(欧州サッカー連盟)を相手取りECJに提訴。「契約が切れた選手の移籍の自由」と「外国人枠の撤廃」を勝ち取り、欧州の移籍マーケットが一気に活気付いた「ボスマン判決」があった。
「ボスマン判決」によっては、Jリーグでプレーする日本人選手が契約切れを待って欧州へと渡っていく「ゼロ円移籍」が頻発することになった。そしてJクラブにとっても、重要な選手に対しては複数年契約を結ぶきっかけとなっていく。
今回の「ディアラ判決」は、選手に寄り添った判決だったはずが、時が経ち、いつしか選手を苦しめる結果となりかねない。欧州の移籍マーケットにどのような影響を及ぼすかは今のところ未知数だが、現在の移籍金ビジネスが減ることは、代理人にとっても飯の種が減ることを意味する。
23歳以下の日本人選手が欧州でステップアップ移籍をする際に発生し、日本時代に所属したJクラブのみならず出身高校や中学にまで支払われる「育成補償金」も期待できなくなるだろう。
「ボスマン判決」の反作用としては、有力日本人選手に近付きゼロ円移籍を実現させ、その結果、Jクラブから“出禁”となる悪徳代理人が蔓延る事態を招いた。そして現在、「ディアラ判決」を受け、代理人たちも自分たちがどう振る舞うべきか熟考しているだろう。もう“選手転がし”だけでは食べていけない時代になっていくからだ。
もちろんJクラブ側も、欧州移籍を希望する選手が自チームにいるならば、それに沿った契約を結び、“育て損”とならない方策が必要となるだろう。仮にも最新のFIFAランキングで日本は15位で、昨年の欧州選手権でグループリーグを首位突破したオーストリア(23位)や、8強に進出したトルコ(26位)よりも上だ。
「EU圏外枠」という壁はあるものの、“入団させていただく”といった卑屈な姿勢でいる必要などないのだ。その将来性に見合わぬ金額や条件、レンタルを前提とした移籍など、選手のためにならないオファーと感じるのであれば突っぱねるくらいの姿勢で、海千山千の欧州クラブに相対していかなければならないだろう。
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